雨が降り冷え込んだ。
駅のホームに並んで立つ。
ほとんど背丈は変わらない。
まもなく上背で彼が勝ることになる。
それが嬉しい。
電車はなかなかやってこない。
待ち遠しいと思うほどに肌寒い。
週末から一気に気温が上がってもはや春なのだと油断した矢先のこと。
真冬の空気が舞い戻った。
クルマで来ればよかった。
大抵はクルマで出勤するが、時折気まぐれで電車を使うこともある。
雨脚が強まり寒さも増してくる。
選りにも選ってこんな日に。
悔やんでももう遅い。
やっとのこと電車がやってきた。
幸いなことに帰宅ラッシュの谷間に恵まれた。
普段この時間なら車内は押し合いへし合いといった様相を呈している。
それがまばら、空席まである。
二男と並んで腰掛ける。
車内は温かく、その心地よさでカラダが安堵し緩んでゆく。
仕事を終えて家路につく夕刻の頃、すべての義務から解き放たれる時間である。
最も心くつろぐ。
雨だね。
といった他愛のない会話を二男と交わすうち駅に着いた。
強く降る雨をものともせず、パーカーで頭を覆って二男が家へと走りだした。
打裂き羽織を雨除けにして威勢よく駆ける若き町方同心みたいに見える。
わたしは傘を差しゆっくりとその後に続く。
自宅に着くとすでに食事の用意は整っていた。
料理教室があった日には目新しいものにありつける。
料理の説明を聞きつつ味わうが、おのずと食べるピッチが早くなる。
その度に注意を受け、じれったくも一口一口の所作振る舞いを緩やかにするよう心がけねばならない。
わたしの晩酌は続くが二男はさっさと食べ終え、ホーキング博士の映画「博士と彼女のセオリー」を見始めた。
ロケ地であるケンブリッジの風景が息を呑むほど美しい。
かつて旅行で訪れた。
家族と出会うはるか昔のこと。
映像に導かれるようにしてぶらり歩いた彼の地の情景がしみじみと胸に蘇る。
いま異国にある長男の姿をそこに重ね合わせる。
彼が滞在する街も彼の国屈指の美観を誇る。
この三ヶ月は彼にとって、いつまでも褪せることのない不滅の日々となることだろう。
あと三週間で戻ってくる。
空港で出迎えたとき、その背丈がどれほどになっているのか楽しみだ。
少し見上げるくらいになっていれば、こんな嬉しいことはない。