この夜、我が家第一班は家内の運転で神戸までラグビー。
帰りは遅くなるということだった。
自宅待機する第二班の相棒にわたしは電話をかけた。
何食べたい?
彼は迷いなく言った。
餃子。
その意気やよし。
仕事帰り、わたしはなごみに寄って六人前を調達した。
うまい餃子があれば、あとは白飯だけがあればいい。
第一班の隊長はあれやこれや作り置きしていったけれど、うまい餃子を前にしては余計なお世話だということになる。
第二班の夕飯。
わたしと二男は差し向かい、餃子だけを真ん中において白飯をかっ食らう。
これでこそ男子。
わたしは餃子ライスの思い出を相棒に語る。
その昔、場所は銀座。
昼飯でもと思って友達の会社を訪ねた。
餃子定食がおすすめだと連れられた。
列に並んで順番を待たねばならないほどの人気店。
期待に胸膨らんだ。
そして出てきたのは、白飯と餃子だけ。
餃子以外の一品どころか漬物もなければ味噌汁もない。
見渡せば皆が皆、白飯と餃子だけに向かい合いがつがつとかき込んでいる。
わたしも同様にする。
餃子と白飯をがさつな感じで口に放り込んで一瞬後、わたしは目の前の友人を凝視した。
なんて美味いのだ。
白飯と餃子の最高レベルのハーモニーに感じ入る。
美はいつだってシンプルなものなのだ。
他に一品出されてもその調和が乱されるだけのこと。
それこそ余計なお世話だということになる。
わたしは二男に言う。
白飯とうまい餃子さえあれば男の食は満たされる。
矢継ぎ早、餃子を口に運びながら彼は黙ってうなづいた。
あのとき以来、餃子となれば、わたしの記憶格納庫のうち銀座の扉が開き、そこの餃子ライスが姿を現す。
いつも決まって当時を思い出し同様にかき込むが、かつての感激に匹敵するような思いとなることはほとんどない。
勢いよく頬張って、そして、何か違うと落胆させられることが大半だ。
なごみの餃子は、銀座の記憶に違和なく融合できる数少ない一品だ。
だから我が家食卓ではお馴染みの顔ぶれ。
長男の受験前日のメニューにも並んだほど。
偏差値を上げる餃子と言っても過言ではないかもしれない。
飯も二杯目という頃合い、ピンポンとインターホーンが鳴った。
二男が玄関へと駆け下りて対応する。
隣家のお嬢さんがパンを差し入れに寄ってくれたようだ。
玄関開いて彼女は一瞬後ずさりしたかもしれない。
妖怪人間ベム・ベラ・ベロ・べ~の住む伏魔殿。
にんにく好きの第二班ベム&べ〜が占拠するこの夜はひときわかぐわしい匂いが漂っていたに違いない。