金曜の業務を終えて晴れて自由。
さあ、どう過ごそう。
考え始めたその瞬間、家内からメールが届いた。
食事の用意は整い、ビールがキンキンに冷えている、との連絡だった。
まっすぐ家に帰ることにした。
子らはともに塾なのでこの夜もまた家内との晩酌になった。
ご馳走を期待していたが、差し出されたのは切り干し大根とセロリたっぷりのサラダ。
サラダに埋もれるサーモンだけが意に適う食材と言えた。
健康のため仕方ない。
野菜好きになりきり、好物にありついたかのように喜んで食べることにした。
あれこれ近隣や身内の話などで盛り上がり、やがて子らの話になる。
ほどよく酔いが回っていたからだろう。
子らに何かメッセージを残そうと家内が言い始めた。
録音開始の合図とともに、わたしは家内のiPhoneに向かって話しかける。
二男に対し思うまま話し、そして長男に対し熱弁を奮った。
話し終え、さあ、再生しようとなって聞き耳を立てる。
ところが、わたしの声など聞こえてこない。
操作ミスは酔いのせいもあったのだろう。
わたしはテーブルの上のサラダに向かって熱く喋ったようなものだった。
気を取り直してもう一度、と家内は言うが、さっき発した言葉はもはや頭のなかどこにも見当たらず再現するなど土台無理な話であった。
そろそろ長男が帰ってくる時間になって塾から着信があった。
一瞬、身構えるが、授業後の質問が長引いてまだ塾にいるとの担任からの連絡だった。
だからこの夜はいつもと逆。
二男が先に戻って、長男が続く形になった。
録音しようと発した言葉は依然としてどこか奥深く隠れて出てこない。
わたしは退散し、リビングは晩酌から夜食の場へと姿を変えた。