午後1時過ぎ、明石駅で待ち合わせた。
西から明石に入ったわたしが先に着き、改札で待っているとまもなく東からの電車に乗って家内がやってきた。
ビニール傘を差して日曜の明石の街を海に向かって歩く。
気温は15℃。
春である。
菊水鮓の引き戸を開けカウンター席に並んで座った。
去年の3月に訪れて以来、今回が2度目の訪問。
明治30年創業、明石きっての老舗名店である。
ビールを注文し、前回同様それぞれ5千円のコースを注文した。
やはり明石。
最初に登場したのはタコだった。
続いて刺身、焼魚と来て寿司となった。
ちょうどこの日は節分でカウンターのなかは恵方巻作りでてんやわんやという様子だった。
間を置くことなく常連さんが引き戸を開けて、持ち帰りの恵方巻を手にしていく。
これも季節の風物詩。
なんでもない日より思い出に残るし、恵方巻に職人さんの手が取られる分、寿司の出てくるペースがゆっくりとなって一層深く名店の雰囲気を楽しめる。
だからビールの次には日本酒を頼んだ。
ゆっくり飲むなら日本酒がいちばんいい。
明石の地酒として名を馳せる来楽をまずは冷酒で、そして熱燗へと進むのは自然な流れと言えた。
コースが終わり、夫婦で意見一致して追加でタコの握りを注文した。
明石であるからこれまた当然の話であった。
塩で食べるこのタコが絶品だった。
この日の寿司を締めくくるのに相応しい味わいであり思わず夫婦で顔を見合わせた。
子らのみやげにする恵方巻と穴子の箱寿司が一組ずつできあがったところで席を立つ。
雨上がりの国道2号線を西に数秒歩けば魚の棚のアーケードに差し掛かる。
商店街の端から端までまずは歩いて、いろいろな店の品を見比べた。
往路で品定めは完了し、復路でめぼしい品を手にとった。
食材買い出しの定石どおり果物と野菜を見繕い、美しい流線型でひときわ目をひいた太刀魚を刺身にしてもらい、やはり明石であるからタコを忘れず、冬であるからブリしゃぶも調達した。
そして明石を発つ前、必ず寄るのが玉子焼の松竹。
駅の北側にあっていつも列なす明石筆頭の人気店である。
子らのため二人前を頼むが、混み合っているからだろう待てど暮らせど出来上がってこない。
結局わたしと家内は店の前で20分ほども世間話をすることになった。
帰宅し夕刻。
子らをまじえての二次会がはじまった。
大人は白ワインを片手に魚の棚で買った刺身を食べ、子らの食べっぷりに目を細めた。
明石焼は前菜としてたちまちにして平らげられ、2秒間隔で口に放り込まれるブリしゃぶの合間、恵方巻と穴子箱寿司が一粒残らず撃破されていった。
そして、前日買ってきた宝塚牛乳のプリンとヨーグルトがデザートとして差し出されたが、これもまた見る間に呑み込まれ爽快感すら覚えるほどだった。
二人居並ぶその様子は、食卓にぽっかり口を開けたブラックホールズとでも言うしかなく、その共演を眺めて過ごす日曜夕刻は夫婦にとって格別の時間であった。