家を出たとき、目の前を一人の青年が脱兎のごとく駆けて行った。
わたしが門を開ける音に反応し、通り過ぎるとき青年はチラとこちらを見たので、目が合った。
日曜の朝、ついつい寝坊してしまったのだろう。
わたしはぶらり歩いて駅に向かう。
コンビニで毎日新聞を手にとった。
まだまだ暑く、のんびり数分歩いただけなのに駅に着く頃には汗ばんだ。
新聞で顔を扇ぎつつ階段を上がるとベンチに腰掛けるさっきの青年の姿が見えた。
噴き出し滴る汗をハンカチで拭き拭きし、手にする団扇を盛んに動かしている。
見ようによっては、その激しさはロックであった。
これぞウサギとカメ。
駅までの道を疾駆した青年は、まさかわたしの面を二度も見るなど想像しなかったであろう。
二度あることは三度ある。
またどこかで顔を合わすのかもしれない。
事務所で軽く用事を済ませてさっさと帰宅する。
長居すれば要らぬものを食べてしまいかねない。
前夜家内と約束したばかり。
会食の場を除き、今後は家内が作ったものだけ食べることにした。
夕飯トップバッターはしいたけの原木。
結構うまい。
続いては前夜に引き続き、いじちく生ハム。
そしてフルーツトマトはじめ野菜がたっぷり載った奈良の豆腐。
もちろん枝豆もまだ尽きない。
実にカラダに優しく、健康を絵に描いたような食事と言えた。
飲み物についてもビールは飲まず、ハイボールで通した。
朝は、納豆と卵。
それに牛乳と豆乳とプログリーンとバナナなどフルーツをミックスしたジュース。
昼は、茹で卵とほんの少しパスタが入ったサラダ。
この分でいけば、瞬く間にわたしは若き青年のような体型になるのではないだろうか。
しかし、ウサギとカメの例にあるとおり、焦って成果が出るとは限らないのでペース配分も含めすべて家内に任せることにする。
確かな手応えを感じ妻に感謝の念をいだいていると、二男が帰ってきた。
帰宅するなり、炊きたてのご飯が盛られ肉が焼かれ始めたのであるから、わたしへの扱いとは大違いである。
夕飯の支度をしながら家内が息子に聞く。
明日の朝は何がいい?
息子の返答は、なんでもいい。
つまり家内に一任。
朝はうな丼に決まった。
二男はこの日の昼、部活仲間と一緒にサイゼリアでご飯を食べた。
チームを強くするには全員がもっとカラダを強く大きくする必要がある。
そう意見が一致して、サイゼの肉を山ほど皆で食べたという。
そんな話が夕飯の際に出たものだから、家内は身を乗り出した。
サイゼリアよりママゼリア。
わたしはスリム化けに向け、一方の二男はマッチョ化に向け、いずれも家内が良き導き役となって実現の道を歩むことになる。