何時帰宅?とのメールに対し8時過ぎと答え家路についた。
家に着くとすでに夕飯の支度が整っていた。
前菜はサバの塩焼き。
脂が乗っていて塩が良く焼き加減も絶妙。
実に美味しい。
続いてサラダ。
この日、静岡から届いたばかりの野菜らが皿に盛られた。
ものが違う。
トリュフオイルがえんどうまめやカリフララーなど野菜の甘味を引き立てる。
好物は野菜。
家内の料理を食べているとそのうちそうなってしまうかもしれない。
メインは、濃厚なゴルゴンゾーラをたっぷりまぶされたペンネ。
菜の花が隠し味となって、のっぺりとしたチーズの大味に繊細な味が散りばめられた。
二皿でも三皿でも平らげたい気持ちになるがうちの家でそれが許されるのは息子だけ。
名残惜しみつつ、わたしは一口一口をじっくりと味わって食べた。
毎夜、料理が素晴らしい。
ふと思う。
前夜は何を食べたのだろう。
にわかに思い出せない。
寄る年波か。
意識の闇の中に分け入って、まさに暗中模索、茫々と手がかりを探っていると、ようやくのこと記憶に手が触れた。
しっかりと握って引き上げる。
サバの煮付けと生ハムサラダ、そして手作り餃子。
前夜の夕餉の映像が数珠つなぎで蘇り、美味しかったという感覚もリアルに戻った。
記憶をすくい上げることができわたしはほっとした。
思い出そうとしなければ、それら映像は意識の光の届かない闇の彼方に消え去ってしまったことだろう。
家内が隣家にゴルゴンゾーラを差し入れに行く。
その際、面白かったと言って『正直不動産』第1巻をわたしに手渡した。
確かに面白い。
わたしは数ページ繰ったところで引き込まれた。
週末の夜、家内と漫画を読んで過ごすことになりそうだ。