帰宅すると家内が電話の最中だった。
相手はソウルの友人。
やりとりを耳にしてすぐに分かった。
昨年5月、家内はフランスを訪れた。
その際、偶然その友人と知り合った。
意気投合し一緒に美術館などを巡りますます仲が良くなった。
彼女は韓国政府のフランス語通訳をする傍ら大学でもフランス語を教えているとのことだった。
フランスを旅するお供としてうってつけと言えた。
以後も交流が続き、互いソウルと大阪を行き来して更に親密になった。
こちらが姉で向こうが実の妹。
そんな関係と言ってよかった。
韓国では新型肺炎の感染が終息段階に入りつつあるのだという。
本来3月が新学期の時期だが、約1ヶ月の遅れをもってこの日に学校がはじまり、その友人も久々オンラインの授業ではなく大学で講義を行った。
文政権の新型肺炎対策は迅速で徹底したものだった。
感染者が発見されるとその行動の軌跡がすべて公開され、各所がただちに消毒されるだけでなく感染者本人をはじめ家族も含め隔離された。
思った以上に早く成果が表れ、これで大統領の支持率は大幅にアップした。
ソウルにはマスクもふんだんにあるとのことで、こちらに送ってくれるという。
やはり、持つべきものは友。
日本だと消毒用エタノールはなんとか手に入っても、マスクの入手はますます困難になっている。
それでこの日、家内は隣家の奥さんと誘い合わせ布製マスクを手作りしていた。
だから、韓国の友人からの申し出は渡りに船というものであった。
家内が友人とする電話のやりとりを耳にして、希望に胸が膨らんだ。
対策をやり抜けば、日常が回復する。
韓国がそうなら日本だってまもなくそうなるはずである。
電話を終えた家内と夕飯を食べる。
京都にし田の肉は赤身もホルモンもどちらも格別の美味しさ。
いままで食べてきた肉は何だったのだと半生を振り返ることになり、一体これまでの人生は何だったのかと互い問うに至った。
何であれ遅すぎるということはない。
この先は、にし田の肉を買い求め、新たな日常を満喫することにすればいいではないか。
ソウルの現在について耳にして、わたしたち夫婦は俄然楽観的な気持ちになったのだった。