旅立つときは、ひとりだった。
三年前の夏のことである。
サマセットで二ヶ月近くを過ごし、世界中に友だちができた。
朝食は大和芋と卵の入った山かけご飯、それにテールスープ。
滋養強壮の雄らが集う食卓で二男が語った。
イギリスで出会った皆と再会する夢を見た。
夫婦で口を揃えた。
それはきっと正夢になる。
修学旅行をふいにはしたが、それを補って余りある滞在だったと言えるだろう。
今も続く彼ら彼女らとの交流は貴重な財産だと言って間違いない。
その前年、長男もひとりで赴いた。
西大和の上位60人のうち過半数が三ヶ月もの留学を敢行したのであるから、凄い教育方針の学校と言うしかない。
皆が連れ立って出発するなか、長男はひとり極寒のゲルフへと旅立った。
そして彼も現地で大勢の友人に恵まれた。
帰ってきたとき、彼の世界は何倍にも膨らんでいた。
異国への単独行を果たせているから、東京に行くなど屁の河童というものだろう。
しかし受験の際、ひとりでは行かせず有能な秘書を帯同させた。
秘書の名は家内。
おそらく不測の事態など生じ得ない。
しかし何か不手際起これば、対処の仕方によっては取り返しのつかないことになる。
受験の機会はどの学校も一回こっきり、つまりすべての受験が非常事態と言えた。
家内がつけば鬼に金棒。
実際、目論見通り食事の段取りや交通手段の算段などすべて家内が対応し、すべてがスムーズに運んだ。
だから二男も同様。
昨秋、長男を訪ねがてらいくつかホテルの下見を行った。
半年前から予約可と聞いていたが、家内が昨晩突如思い立って調べると、コロナの影響で状況が変わったのかすでにホテルの予約が可能になっていた。
受ける学校も日程も決まっている。
その期間、快適に過ごせるよう最適な拠点配置を思案して、ネットで調べ電話をかけ、思ったとおりにいい部屋を押さえることができた。
このように家内の内に備わるセンサーが時に鋭敏に働いて事が良い方へと進んでいく。
これで一歩前進。
息子たちは家内のお腹から出てこの世に姿を現した。
そしてまもなくほんとうに巣立っていくことになる。
一抹の寂しさは感じるが、そこで息子の未来が拓けていくのだと思えば喜びの方がはるかにまさる。
冬にかけ新型コロナの感染拡大が懸念される。
なんとか大事に至らず、時計が平常通りに進むことを祈りたい。