祝日を前に、二男がぶらりと帰ってきた。
朝、一緒にご飯を食べてから家を出た。
昔なら朝5時起きでの出発であったが、いまはゆっくり。
午前10時の電車はガラ空きで、ゆったり並んで座って電車に揺られた。
谷六駅で降り商店街にてスタッフの弁当を買う。
そんな様子を含めあたり一帯を眺め、二男が物珍しそうにしている。
新しい事務所に顔を出すのは彼にとって初めてのことだった。
入口でビルの受付さんに会釈した。
二男を伴いそこを過ぎるとき、わたしは背中で語った。
これがうちの息子なんです。
今度もう一人の方も連れてきますね。
事務所にて皆に挨拶した後、わたしの自室に陣取って彼は作業をはじめた。
一時間ほどで仕上がり、では昼に行こうと外に出た。
何がいいかと聞くと、蕎麦と言うので文目堂に向かった。
そもそものはじめから家内の助言で昼は蕎麦と決めていたようだった。
ヨガを終えた家内も合流し、三人揃って冷やしきざみそばを二枚盛りで注文し、わたしと二男は種類違いを分け合って、家内は自分の分をどっさり二男に分け与えた。
土山人の上を行く。
二男がそう言ったから、家内は自分が手柄を取ったみたいに喜んだ。
ちょうど長男から練習風景の写真が送られてきて、かつ二男が横にいるからいつにも増して家内は饒舌で、蕎麦について語る姿がなんとも可愛らしく思えた。
夜、洗濯物を畳みながら冬季オリンピックの中継を熱心に観る家内の横顔が浮かんでいまここに重なり、これまでの子育ての奮闘をねぎらうような気持ちになった。
と、二男に電話がかかってきた。
66期の友人からだった。
念願の慶應に合格したとの連絡だった。
押さえとして出願した国立は受験しないというから、今季受験終了第一号の報せとなった。
ああ、なんとめでたい。
我が事のようにわたしたちも喜んで、蕎麦を噛み締めその喜びも噛み締めた。
昼を食べ終え、息子と家内の背を見送り、わたしは事務所に戻った。
その後ろ姿に目をやったとき、しみじみとしたものを感じた。
いつかこんな日が来る。
そう思ったことが、ささやかではありながらも、ひとつひとつ実現していく。
もう蕎麦は食べ終えていたので、そこでひとり噛み締めたのは喜びだった。