寒さに打ち震えていた先頃の日々が嘘のようである。
いつの間にやら冬が舞台袖の奥へと消え去って、春が姿を現した。
空は明るく、暖かな陽射しの匂いが実にいい。
そんな春の日、長男は引き続き東京で過ごし、家内は骨休めを兼ねて上京し、このほど二男が帰京した。
わたしはひとり大阪に残され、留守を預かって仕事する。
日頃は家と事務所の自室にこもって業務に励む。
が、家に誰もいないのであれば、陣取る場所が自ずと決まる。
居心地の最高峰と言えば、うちのリビングをおいて他にない。
広々とした窓から春の陽が降り注ぎ、照明は不要。
気に入った音楽を流し、陽の移ろいを感じつつであるから、まさに日時計に合わせゆったり呼吸し仕事を進めることになる。
時に出向く用事が生じれば、さっと行ってぱっと帰って、またこの快適のなかに舞い戻る。
そして、息子たちから家内から、リアルタイムで今の様子が伝えられる。
長男も二男もカラダを鍛え、家内は息子らのための買い物に勤しむ。
夜はいとこ達と会って食事するのだという。
母の孫らはあっという間に大きくなって、互いに行き来し良き影響を与え合って仲がいい。
そんな様子にわたしは目を細め、おそらく母も。
皆を眺める母の笑顔が空の向こうにほの見えた。