明石での業務を終えての帰り道、ふと思いつき、新長田駅で途中下車した。
行き先は元祖平壌冷麺屋本店。
はじめて訪れたのは子らが園児だった頃のこと。
おいしい冷麺屋があると聞きつけてのことだった。
以来、その味に魅了され、家族でちょこちょこ通うようになった。
ご無沙汰すると、夢に出る。
潜在意識が欲するほどの一品と言えた。
この日、心の声に促されるまま、店に吸い込まれて驚いた。
午後4時と言えば普通の飲食店なら客がはけている時間帯である。
が、ここは満席。
そこで提供されるのは、今日も明日も明後日も大勢の人が求めて止まない冷麺なのだった。
せっかくなので特大のスペシャル冷麺をわたしは頼んだ。
待つ時間、冷麺への恋慕が募って気が急いて仕方がない。
だから目の前に冷麺が現れた時にはそこに光が射して目がハート型に変化した。
酢をたっぷり注ぎ、久々その味に耽溺する時間を過ごしてやはり納得、これはほんとうにおいしい。
心の声はご満悦して鎮まった。
しかし、いったん収まってもまた折りを見て発動するのは火を見るより明らかなことであった。
そのため必要なのは基礎代謝を上げておくことであろう。
わたしの場合、ジムへのモチベーションはこのようにして醸成される。
帰宅してすぐわたしはジムへと向かい、一時間ほど筋トレし何食わぬ顔をして夕飯の食卓に座った。
もし冷麺を食べてきたと白状すれば、間食したことについてではなく、一人で食べたことをずるいと家内に咎められるのは明らかだった。
家内のなかの心の声が発動せぬよう冷麺について黙っておく。
これもひとつの優しさの表れと言えた。