わたしが河内磐船で電車に乗ったとき、家内は天王寺にいた。
しばらく後、「いま放出を出た」とメールすると「大国町から西梅田に向かうところ」と家内から返信があった。
南森町に着いたとき、家内は西梅田の改札を抜けたところだった。
北新地でわたしは電車を降り、第二ビルのなかにある役所に向かった。
案の定、家内がそこで順番を待っていた。
横に座って一瞬後、家内はわたしに気付いて、ひとこと言った。
「きしょ」
クラスの人気者男子に照れてぶつける憎まれ口みたいなものだろう。
家内の用事が終わるのを待って、揃って梅田の街に出た。
どこかで夕飯を済ませて帰ろうと思案してすぐ考え直した。
新型コロナの感染急拡大しているさなかであった。
夜の街をほっつき歩いている場合ではない。
さっさと家に帰るのが賢明だろう、そう意見が一致した。
近くに青森岩手の特産物を扱うアンテナショップがあり、そこに寄って食材を買い求め電車に乗って帰宅した。
この日の朝、かなり冷え込んだので冬物のスーツに袖を通していた。
筋トレの成果か、ゆとりあったはずの上着の肩が窮屈になって一層増しの疲れを感じた。
だから風呂上がり、Tシャツ一枚でくつろいで家内と飲む日本酒の味は格別だった。
手料理を楽しみ、締めはアンテナショップで出合ったぴょんぴょん舎の盛岡冷麺。
長男の大好物だから、夫婦で長男の話になり、その瞬間、噂をすれば何とやらといったタイミングで彼から写メが送られてきた。
場所は居酒屋。
写っているのは長男の友人だった。
手にiPhoneを持っていて、そこに若い頃のわたしの顔写真が大写しになっていた。
よく見れば、並んで写るその顔が瓜二つ。
長男は、若きわたしのそっくりさんと酒を酌み交わしているのだった。
息子がいま、大学生だった頃のわたしと一緒に居酒屋にいる。
写真を見ながら、そんな楽しい空想を巡らせた。
長男みたいな友だちがいたら、わたしの大学生活はもっと楽しいものだったに違いない。
まもなく二男が帰宅した。
ついでにわたしは空想を膨らませた。
二男が友人であったなら、これまた実に頼もしい。
たまたま父と子。
そんな関係で出会ったが、友人として出会ったとしてもかけがえのない存在でそれぞれが唯一無二。
親友になったであろうと確信できる。