朝は牛丼。
家内は手間を惜しまない。
具材は前夜から仕込みが為されていた。
子らがうまい、うまいと言って完食するのも当然だった。
二男を送り出し、まもなく長男も朝から出かけ、家に夫婦が残された。
さて、何をしようか。
息子が東京に帰る前に美味しい焼豚を食べさせたい。
家内がそう言うから連れ立って神戸に向かった。
蒸し豚なら御幸森、焼き豚なら神戸南京町で買い求めるのが最良の選択と言えるだろう。
目指すは和記。
一度贈答の品でもらってから気に入って、うちの定番になった。
駅を降り地下街を通って南京町へと向かう途中。
メガネ屋があって家内が足を止めた。
先日、天満橋のゾフで度付きのサングラスを買った。
軽くていいから、あなたもメガネを買えばいい。
家内はかなりの世話焼きである。
どこか別の場所でならメガネなど間に合っていると強弁できるが、メガネ屋を前にしては断り難い。
まるで異国のガイドが土産物屋にいざなうような手口で、わたしはメガネを選ぶことになったのだった。
果たして、家内の助言に従って正解だった。
2年ほど前に買った眼鏡よりはるかに軽くて、つけ心地が抜群。
心なしか視界が広がったようでもあり、支払いがたったの8,800円だったから得したみたいで気分もいい。
が、外は灼熱。
心弾んだのも束の間、地上に上がってすぐ喉はカラカラになり、息も絶え絶えになった。
たまらず先に昼を食べようと家内に声をかけると、では、民生でと店が決まった。
意思決定が迅速でモタモタ感がないから、暑さも一瞬吹っ飛んだ。
やはり家内はそこらのガイドを上回る。
時刻は11時20分。
開店まであと10分。
数組待つ列に並ばなければならなかった。
日陰に家内を立たせ、わたしは熱射に晒された。
これが冗談ではない破壊力であり、じわじわとカラダの内部が蝕まれていくのが分かった。
日本の夏はカラダに毒。
身をもってそう知って、遅々として進まぬ時間に身悶えした。
11時28分に扉が開いて、席に案内された。
座って汗をぬぐうより先、わたしはビールを頼んだ。
ビールで乾杯してから、家内が店の人にオススメどころを聞いてテキパキと注文していった。
蒸し鶏、イカの天ぷら、レタスのミンチ包み、水餃子、五目汁そば。
量は多めだったが、美味しいのでわたしはいくらでも食べることができた。
結局ビールは2本空いて、ハイボールで締めたから、期せずしてちょっとした昼飲みとなった。
これで熱射に抗することができる。
和記で焼き豚を、老祥記は長蛇の列だったので一貫楼で豚まんを買い、神戸大丸で幾つか家内の買物を済ませた。
しかしこれで用事が終わった訳ではなかった。
次に向かうは西宮阪急。
ぴょんぴょん舎の盛岡冷麺も忘れてはならないのだった。
あまりに暑いので、買い物を終えて西宮ガーデンズからタクシーを拾って家に戻った。
買い物しただけなのに結構な疲労感があった。
シャワーを浴びて一休みしていると、長男が帰ってきた。
長時間のトレーニングを終えて空腹だと彼は言った。
ここで立ち上がって食事の支度をし始めるから、家内は凄い。
冷麺大盛だけを作ればいいのに、肉まで焼いた。
長男が東京に戻れば、おそらくどっと疲れが出るに違いない。
家族のなか、家内の夏休みはどうしても一番最後になってしまう。
お盆明け、リンパマッサやヘッドマッサなど総動員でしっかり休養をとってもらわねばならない。