休み気分だからだろう。
肩の力がほどよく抜けて、平日よりも仕事が捗る。
その分、深追いするから気づけば夕刻。
これぞ、土曜の逆説。
無欲だからこその勝利と言えるだろう。
仕事を終えていつものとおりジムに向かった。
筋トレに勤しんでいると、マスクを着用していない男性が声を弾ませているのに気付いた。
ちょっとあんた、喉元まで出かかってしかし踏み止まった。
注意一秒、怪我一生。
組み合えば負けないとは思うが、万一にも面倒に巻き込まれてはつまらない。
いま幸せな日々を送り満ち足りている。
見知らぬ不届き者に関わって、予期せぬ反作用を受けるとすればあまりにも釣り合わない。
一秒の不用意な注意が、面倒を誘い込みかねない。
標語の意味を大阪仕様に変換して噛み締め、わたしはその場を離れた。
ところが、次に足を向けたランニングスペースでも同様。
マスクを着用する者などなく、皆が皆、恍惚として呼気を吐き出し続けていた。
アクリル板で仕切られてはいるが、効果など知れている。
子どもの下敷きを手に水中に飛び込んだところで、全身が水浸しになるのは目に見えている。
コロナにかかると、息が苦しくなるという。
高所恐怖、先端恐怖、閉所恐怖、恐妻など、怖いものなら何でも怖いが、息ができないという恐怖を越え出るものはない。
その場にいるだけで苦しくなって、呼気の酒池肉林の場からわたしは早々に退散した。
帰り際、受付スタッフに声をかけてみた。
危険では?
オゾンで空気が消毒されていて、アクリル板があるから大丈夫ですよ。
そう言ってスタッフが笑ったので、プールに飛び込み皆で水浸しになっている絵が頭に浮かんで、わたしも笑った。
ジムを出たとき、家内からメッセージが届いた。
ステーキとフルーツを買ってきて、とあった。
その足で、わたしはビッグビーンズに立ち寄った。
やはりさすがの品揃え。
松阪牛のステーキを買って、フルーツは愛媛のせとかを選んだ。
家内には、特売の和牛ステーキを買ったと伝えた。
開けてびっくり、そこには松阪牛。
家内の驚く様子が頭に浮かんで、帰途の路上、わたしは変質者みたいに一人にやりと笑った。
家に帰ると、サザエが焼かれる香ばしい匂いが漂っていた。
義弟からは、息子への陣中見舞いとしてでっかいクエが届いていた。
前夜買った肉や果物と合わせて、かなりの分量。
これだけ食が充実すれば、自ずと武運もあがる。
つまらないことで失っては、釣り合わない。
禍をなるべく避け、明日も明後日も安全第一。
念じるようにわたしは自分に言い聞かせた。