暮れも押し迫り、業務の忙しさがピークを迎えた。
猫の手よろしく家内も手伝いにきて、バタバタするもにぎやかな一日となった。
夕刻、家内とともに電車で帰途に就き、家に着いてすぐクルマでジムへと向かった。
気温がぐっと下がり、雨も降り始めていたからだろう、プールに人影はちらほら見える程度だった。
いつものとおり泳いで筋トレし、サウナで一旦わかれマッサージチェアでまた家内と合流した。
早朝からわたしは仕事にかかり、一方の家内は料理を作り、業務を終えてもジム活を怠らないのであるから、やはりわたしたちは真面目夫婦と言えるだろう。
そして、真面目に過ごしたご褒美がこの日の夕飯で、高知から届いたばかりのクエがわたしたちの帰りを待っていた。
ノンアルで食すなどクエに失礼というもので、ビールで乾杯してから、手分けして鍋の支度をし、スパークリングを開けて鍋を挟んで向き合った。
クエの身を食べ、やはり当然、双方から感嘆の声があがった。
世の中でいちばんおいしい食べ物はフグであるが、クエはその上を行っている。
その最上位の上に位置する味わいを確かめるように、わたしたちは味覚以外の感覚を遮断して、クエの身からほとばしる無際限の美味に神経を集中した。
ああ、なんてわたしたちは恵まれているのだろう。
夫婦で思うことは同じだった。
この冬、京丹後でカニを食べ、先日はあじ平でてっちりを食べ、昨日、播磨灘の牡蠣を食べたと思ったら、今日はクエ。
一歩一歩地味に地道に夫婦で進み、それが何か確かなものとして実ったと言えるのかもしれない。
たいへんだったが、こうであるならそのたいへんさも報われたといった話だろう。
そしてもちろん家内はクエの身をあらかじめ取り分けて、しっかりと長男の分も確保しているのだった。
クリスマスにいったん長男は東京へと戻り、また年末に戻ってくる。
二男はこの正月は帰省せず、星光の成人式に合わせて帰阪して、地元の成人式を終えてまた東京へと戻る。
その行き来の日程が家内の頭の中に叩き込まれている。
長男にしたのと同じレベルで、家内は二男にも最高の料理を振る舞うことになるだろう。