西へと向かう列車に揺られ約二時間。
播州赤穂駅を降りると雨は上がっていた。
薄曇りの空のもと人影もまばらな道を海に向かって歩いた。
ちょうど昼時だったが幸い、かましま水産の店先に列はなかった。
二男を前に、わたしと家内は横並びに座ってテーブルを囲んだ。
二男が適当に頼んでいった。
牡蠣フライ、カキオコ、刺身、蒸し牡蠣、生牡蠣、オイかば丼。
順々に料理が運ばれ、食べても食べてもしばらくの間、テーブルの上は料理で溢れ返った。
牡蠣を好きなだけ食べる。
当初の目的は4品目くらいで達せられ、5品目以降に至っては「好きなだけ」から「嫌になるほど」へと修飾語を変えねばならず、もしもっと頼んでいれば、昼食の席が責め苦の場へと変貌していたことだろう。
腹ごなしが必要となった。
店を出て更に海に向いて歩き、赤穂城跡をぶらついた。
相変わらず人影はなく雨上がりの空気のなか、古跡の静けさが家族水入らずの空間を優しく包んだ。
バスの迎えの時間に合わせ駅へと引き返し、海沿いの道を揺られ赤穂温泉 銀波荘へと運ばれた。
ただただ湯につかって飯を食う。
そんな骨休めの時間が始まった。
チェックインのあと部屋からの眺望でしばし目を休めてから、風呂へと向かった。
風呂からの景色も同じ。
海上をゆったりと銀波がうねって、心身のリズムがその動きに同化していく。
だから頭のなかは次第に空っぽになっていった。
無の境地にて二男と並んで湯船に横たわり、ただ存在することの喜びにひたった。
カラダがほどよく温まったところで、サウナで昼の酒を抜くことにした。
二男の定石に合わせてサウナと冷水に交互に入り、休憩室のマッサージ機でカラダをほぐす頃には、夕飯を迎え撃つ態勢が整った。
夕飯には色とりどりの海の幸が添えられた。
種類も量もかなりのものだったが、美味しいので食が進んだ。
サウナに入ったからビールが美味しく、肴が旨いから白ワインの味も映えた。
夕飯後は、寝るだけ。
久々、三人で川の字になって、ぐっすり眠った。
一夜明けて、朝風呂。
朝の陽を受けて輝く海を二男と眺めながらサウナで語り合った。
これまでのこと、今後のこと、女子のこと、海の向こうに見える小豆島を旅行したときの思い出。
話すことはいくらでもあった。
二時間に及ぶ長風呂となって、わたしにとって最長記録。
海を眺めサウナで語り合ったこの日のことを、わたしたちは生涯忘れないだろう。
朝食後、一足先に二男が宿を発ち、わたしたちはのんびり過ごしてから帰途についた。
が、乗った列車があべこべ。
のどかな田園風景に見とれ、列車が岡山方面に向かっていることなど気づかず、日生駅に到着してはじめてわたしたちは我に返った。
どうせなら遊んで帰ろう。
そう家内と意見が一致した。
観光案内所で自転車を借り、春の瀬戸内の光景を楽しみながら海岸線の道をあちこち走った。
味の市で土産にする牡蠣とせとかを買い、昼食の場所にカキオコあらたを選んだ。
ビールを二本空けて、あとは列車に揺られて眠るだけ。
最初から最後まで、完全無欠な骨休めとなった。