業者に頼む。
そう言うと、彼らはびっくりしたような顔をした。
これくらいの量、自分らで運べますよ。
彼らの余裕の笑顔につられ、週のはじめの月曜、わたしたちは自力で引っ越しを敢行することになった。
思った以上に作業は骨折りとなった。
結果、わたしは助さん格さんの底力を目の当たりにし、彼らを心底見直した。
さすが近大卒。
実戦での戦闘能力に長け頼もしい。
わたしなど軟弱の徒。
ジムで鍛えているが、そんなルーティントレーニングで培われるものなど無に等しいと悟らざるを得なかった。
助さん格さんは重い荷を背負って階段を上り下りし、軽トラで2往復した。
その他、パソコンを納入するチーム、コピー機を運搬するチーム、不要物を撤去するチーム、そして移転先ビルの受付女子、管理人、それら全員の総力を結集する作業となった。
そこにごまめのようにつきまとい中途でわたしは力尽きた。
ああ、書類屋でよかった。
生まれ変わってもこの職につく。
そう固く決意したとき、長男から連絡が入った。
採用された、とのことだった。
三田キャンパスの周辺には大使館が数多く点在している。
それで長男は思い立った。
大使館にインターンとして使ってもらおう。
どこも募集などしていなかったが、彼は構わず勝手に応募した。
何でもやります、トイレ掃除でもベビーシーッターでも。
そう意気込みをアピールし、しかしほとんどが空振りに終わった。
丁寧に断りの連絡をくれる大使館もあったが、返事さえくれない大使館もあった。
わたしならここで諦めて方向転換しただろう。
しかし、彼のガッツは母親譲り。
ひるむことなく更に応募を継続した。
果たして彼はまたも「捨てる神あれば拾う神あり」を立証することになった。
ラグビーだって勉強だって、拾う神と出会えたからこそ曲がりなりここまでやってこられた。
そして、これからもそう。
週末にスーツを新調し、長男は月曜午前の指定された時刻、面接に臨んだ。
インタビューはもちろん英語。
大使は法学部出身でラガーマン。
意気投合し、その場で採用が決まったが、大使が言うには応募当初から採用すると決めていたとのことであった。
ささやかではあっても、これで世界への扉が一つ開いた。
インターンとして彼は更に精進し交流を深め、このチャンスを必ずやテコに飛躍することだろう。
一方、二男はオフを楽しんでいた。
月曜のみ練習が休み。
自転車で街を走り、美味しそうなパン屋を見つけそれを昼食にした。
写メをみると、家内が用意するものとそっくり同じ。
これもまた母親譲り。
初夏間近。
晴れ渡った空のもと、くつろいで過ごす二男を思って頬が緩んだ。
そのように息子らの近況に触れているうち、無事、引っ越しが完了となった。
4月20日は大安吉日。
わたしにとって新たな扉が開くようなもの。
さあこれから、まだまだこれから、ということである。