午後になって雨と一緒に寒気もやってきた。
駅前での待ち合わせだったが、まずはいったん帰宅した。
暖かい服に着替え、皆で揃って家を出た。
目当ての店は「わびさび」。
が、どうやら月曜も定休日になったようだった。
日曜は満員で予約が取れず、月曜もダメ。
二男には諦めてもらうしかなかった。
そこから目と鼻の先にある「吉鳥」を訪れた。
幸い家内のお眼鏡に適い二男も気に入ってくれたから、どんどこ注文することになった。
やたらと食べる二男にわたしは上京したばかりの頃の思い出を語った。
桜咲く季節、見知らぬ街をぶらつくことはとても趣き深く、そんな些細な散策の光景が生涯胸に残ることになる。
そんな話をしていると、二男の携帯にメッセージが届いた。
友人が京大法の後期入試で見事合格を果たしたとのことだった。
土俵際、その合格の喜びは計り知れないほど大きいはずで、彼の家族の間に沸き起こる巨大な歓喜の輪郭をなぞるようにしてわたしたちは喜んで、ああやれやれ、無事に受験が終わったことに安堵した。
腹ごしらえを終え、帰宅して荷造り。
翌日、二男は九州に向け発つことになっていた。
そして、卒業旅行を終えてすぐに上京。
わたしたちはいよいよ息子を送り出す段に至ったのであった。
玄関に衣服など荷物を集め、家内が荷詰めしていった。
思い出のシャツなどあれば、畳んであるのにわざわざ広げて家内は過去を懐かしんだ。
それらにまつわるエピソードをいちいち語って聞かせるものだから、作業は遅々として進まなかった。
結局、皆で玄関に集まって、息子の18年をしみじみと振り返ることがメインの場となった。
何より子らのことを最優先にした。
そうやって育ててきたのは、家内。
荷物は少しずつ片付いていったが、話は片付くどころか際限なく広がっていくばかりだった。