長男が帰ってきた。
家で食べたいと彼が言うので家内が腕によりをかけた。
タコちゃんがくれたステーキがこの日を待っていた。
4枚全てを惜しみなく家内が焼きそのうち3枚を長男が平らげた。
残り1枚をわたしと家内で分けたが信じられないくらいおいしく、美味が長男帰省の喜びとともに胸に深く刻印された。
東京での日常が克明に語られ数々のエピソードが赤裸々に詳述された。
何でも話し合い隠しごとをしないアメリカンファミリー的な会話といった様相を帯び、わたしたち夫婦は彼の青春の充実を心から寿いだ。
見事という他ない彼の社交性は母譲りのもの。
彼自身がそう認識し、彼の記憶の淵にある母の面影が語られた。
誰に対しても親切で気軽に声をかけ、人によくするタイプの人。
小さな頃から彼には母がそんな人物に見えていた。
その他数々の美質を受け継いだ。
彼は感謝をもって母にそう述べた。
遺伝子ありがとう。
変な言い回しであったが、母はその言葉でほんの少しだけ涙した。
母としての労苦が報われた瞬間であった。
赤ワインが二本空き白ワインの一本目に差し掛かったとき二男が帰ってきた。
アメリカントークに二男も混ざって大いに盛り上がりやがて話のテーマは受験に移り真剣味を帯び始めた。
4月までにこなすべき参考書の名が挙げられ、一日の時間配分や夜寝る前にすべき課題などが語られた。
合否を分けたのが何であったのか。
自身や友人らの情報を通じ長男にとって明瞭であったから二男に語る言葉は強く説得力があった。
東京に来い。
後は全て俺に任せろ。
東京に出て半年あまり。
彼はとってもいい兄貴になっていた。
東大をはじめとする西大和勢だけでなく、すべてが破格な慶應の友だち、バイト先で友だちになった仰天優秀な早大生など、口の端のぼる魅力的な登場人物が増え続け、来年更に西大和の友人らがわんさと東京に合流するからメンツの厚みが倍増する。
その充実を思えば親はまったく寂しいなど思わない。