わたしはその場に居合わせなかった。
浅草でのこと。
仲見世の一角で家内と二男が串団子を買った。
店先の端で食べていると、隣の店主が凄い剣幕で店を飛び出してきた。
「迷惑だ、そこで食べるな」
二男は一喝された。
二男の立ち位置が隣の店に少し被っていたことを見咎められたのだった。
二人は黙って場所を移動する他なかった。
お参りを終えての帰り道。
参詣の客がどんどん増え浅草寺の門前は賑わいを増していた。
多くの観光客が、二男と同様の立ち位置で串団子を頬張っていた。
初老の店主はと見ると奥でじっとしていた。
二男は当時小学校低学年。
そんなちびっ子が、止める家内の手を振り払い、店の中へと突き進み店主に強い口調で詰め寄った。
あの人たちには注意しないのですか。
子どもにだけきつく言うのですか。
店主はちびっ子に言われるがまま気圧された。
弱きを挫き強きには跪く。
そんな手合いは数知れず、弱味を見せれば畳み掛け強気に出れば押し黙る。
幼い二男は世のパワーメカニズムについてそのとき学び、いまでは18歳の屈強男子。
いちゃもんをつけてくる者など一人もいない。