空港を出て、凍てつく寒さにたじろいだ。
一目散に駆けタクシーに飛び乗った。
信号待ちの際、隣のクルマに目が行った。
ボンネットに積もった雪がこの寒波の強烈さを物語っていた。
だからだろう、車内では温泉談義で盛り上がった。
城崎より有馬。
ブランドとして有馬の優位は揺らがない。
運転手はそう語り、近場のスパについても詳説し始めた。
トランクに風呂道具を積んでいて、運転に飽けば湯に浸かってひと休みするのが趣味なのだという。
阪神間では水春が筆頭。
天然の温泉が露天にあって炭酸泉もある。
それに加えて、漢方ミストが傷んだ心身を匿うかのように癒やしてくれるからたまらない。
こんなお風呂は他にない。
運転手のそんな話が耳に残っていたから、翌日の仕事後、催眠術で刷り込まれたようにわたしたちが水春に向かうのは当然の話であった。
前夜帰省した二男も連れて、芦屋鳴尾浜線をクルマで走った。
ハンドルを握るのはわたしだった。
東京では初日昼から、スパークリングと赤ワイン、夜は家内と白ワイン、二日目の昼は寿司屋でビールと日本酒二合、夜はラーメン屋でビールとハイボール、三日目も昼はステーキハウスでビールと赤ワイン、夜は空港でハイボールと飲んだくれた。
だからさすがに月曜日はノンアルと決め込んだ。
タクシーの運転手が言ったとおり、やはり水春は素晴らしく、二男もたいそう気に入ったようだった。
そして、風呂上がり、ドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』に家族三人で見入って、わたしと家内は昔を懐かしんだ。
土曜日の夜8時と言えばドリフ。
ドリフを通じ、わたしたちが同じ時代を生きてきたのだとの共感が深まった。
ああ、あのとき誰もが幸福だった。
懐かしいギャグを目にして夫婦で大笑いし、それにつられて昔ながらの笑いに二男も笑って、その相乗効果でわたしたちはますます笑った。
笑いが家に渦巻いた。
笑う門には福来たる。
もう一人の息子も間もなくこの渦の中に戻ってくる。
また行き先は水春になることだろう。