武蔵小杉から電車に乗り自由が丘にて乗り換え二子玉川で降りた。
日頃慣れ親しんだ大阪千日前線の一角、野田の玉川とはずいぶん趣きが異なる。
ぶらり界隈を歩きながら家内の到着を待った。
まもなく駅に着く。
家内から連絡が入り高島屋の一階で待ち合わせた。
そこから少し歩き、予約してあった鮨逸喜優を訪れた。
カウンターに座って家内とビールで乾杯しているとまもなく長男も姿を見せ三人が揃った。
なかなかいい雰囲気。
凝った小料理が冷酒を誘う。
ネタが新鮮で、大将の覇気も技術もハイレベル。
小品5品と寿司8貫で昼の5千円コースは一区切りとなったが、それで腹満たされるわたしと息子ではなかった。
息子に注文を任せるとトロや赤貝などと言い出した。
もはや勘定がいくらになるのか分からないと思いつつも、うまい、うまいと彼が喜んで食べるので親はただただ目を細めるだけのことであった。
家内など自分の分の穴子やトロまで息子に献上するので、さすが母、とわたしは感心した。
世には子の分にまで手を突っ込み貪り食う欲張りな母もどきも少なくない。
おそらく息子は先々このシーンを思い出し、その愛情に打たれることだろう。
トロ鉄火とあなきゅうでしめ、最後にお椀をいただいた。
海老百匹で出汁を取ったという汁が実に美味しく、へーとかほーとかはわたしたちは各自不揃いに声を上げつつ感嘆した。
やはり東京。
寿司を食べるなら江戸で、わたしたちはそう学んだ。
友だちと約束があるから帰る。
息子がそう言うので、わたしたちは二子玉川散策の予定を変更し、一緒に電車に乗って武蔵小杉に向かった。
息子と食事しホテルに泊まって一緒に過ごしたこの二日間であったが、電車で横並び座った僅か30分ほどの時間が最も強く色濃くわたしたちの記憶に刻まれたのではないだろうか。
心に染み入るような深く静かな時間であった。
改札で別れたとき、その背を最後まで見つめていた家内の胸に一層込み上がるものがあったのは間違いない。
道すがら息子から要望あった寝具などを選び、隣家へのみやげを見繕った。
もちろん二男へのみやげも忘れない。
崎陽軒のシュウマイと東京バナナと千疋屋のフルーツプリン。
いずれも二男の大好物。
これらを携えわたしたちは帰阪の途についた。
夕刻、家に到着し夫婦で意見が一致した。
やはり家がいちばん。
たったの二日間であったが振り返れば東京滞在の時間はやたらと長く感じられた。
できたてほやほやの思い出話にふけっていると、二男が帰宅した。
フィジカルを強めるためこのところ筋力アップに取り組んでいる。
だから二男の体躯が一段と逞しく見えるのは当然のことだった。
開口一番、二男が言った。
週末、国体のための練習があった。
大阪代表チームでの練習試合で、得点を決めた。
そうかそうかとその体格に見入りながら夫婦して喜んだ。
本番の日は必ず応援に行かねばならない。
長男がいて二男がいる。
夜、ハイボールを飲みつつそんな当たり前のことをわたしは家内に言った。
わたしの感慨が伝わったのだろう、家内は黙って頷いた。