朝、台所で用事しながらAppleTVの「スヌーピー」を家内が流す。
これがこのところのお決まりで、定番のキャラクターたちがリビングの空気を和ませて久しい。
のんびりと支度して、わたしは仕事に出かけ、家内は用事を続行するかヨガに出かけるか街に繰り出すかなどして過ごす。
明日は中学入試の日であるが、もはや当事者である時代は過ぎ去った。
なんと平和で平穏なことだろう。
当時のことはいまも記憶に新しい。
受験本番数日前から気が張りすぎて、現実感覚がおぼろとなった。
クルマを運転していても、まさかほんとうに本番の日が来るなど信じがたく、眼前の光景がすべて絵空事のように感じられた。
しかし、時は着実に間近に迫って、一週間前が三日前となり二日前となり前日となった。
まさか、まさかといった感じでその渦中へと家族揃って引きずり込まれていったあの数日は人生でもっとも呼吸の浅かった時期だったと言えるかもしれない。
前日の夜、早めに帰宅し食卓を囲んだ。
なるべく普段どおりに過ごし、みなでさっさと寝床に入った。
熟睡からほど遠く、まだ夜中とも言える早朝に家内もわたしも起き出して、あれこれ支度したのであったが、思えばそのときスヌーピーの出る幕などどこにもなかった。
日が昇ると腹が据わって落ち着いた。
神社で手を合わせてから会場へとクルマを走らせた。
息子がいま試験を受けている。
そう思うと仕事をしていても心ここにあらずといった状態になり、差し迫ったような緊迫感に苛まれた。
そんな日中を過ごし、そこから合格発表までの時間がまたやたら長く感じられた。
いやはや、これはもうしびれた。
そしてまもなくふんわりととろけるような夢見心地がわたしたちを訪れた。
そうなってはじめてどれだけ心が硬く強張っていたのか手に取るように理解できた。
その極限を一年の間を置いてうちは二回も味わった。
遠く過ぎ去り、いま息子たちは東京で暮らし、わたしたち夫婦はスヌーピーを見て過ごす。
もうあんなことは二度と御免被りたい。