待ち合わせ場所を決めるため電車を乗り換える際、家内に電話をかけた。
いまジムを終え家へと向かって運転中とのこと。
では、駅の南口でとわたしは手短に伝えた。
わたしの方が先に着いてロータリーで待っているとまもなく家内が現れた。
真新しいブルーのワンピースが目に涼しく、ほんの少し暑さがやわらいだように感じられた。
幸いタクシー乗り場に一台停まっていたので、そのまま乗り込んだ。
「たけや」と言っただけで運転手には行き先が通じた。
運転手が言った。
寿司屋さんは幾つもあるが、人気を博す店は少ない。
たけやはここらでは圧倒的な人気店で、駅からタクシーで向かう人が多いから運転手でたけやのことを知らない者はいない。
よく予約がとれましたね。
それで期待が高まった。
店は新国道沿いにあり、何度も前を通っているのに、そこに寿司屋があるなど気づかなかった。
それくらい質素でこじんまりとした佇まいの店だった。
家内とカウンターに腰掛けて、これで満席。
前夜飲まずに過ごしていたから、わたしは体調も万全で準備万端だった。
定刻となって、はじまった。
一流の店は出だしから外さない。
そして、二品目以降も同様。
なぜこんなにおいしいのか。
そう水を向けても、店主からは「ありがとうございます」との言葉が返ってくるだけなので、味の秘訣に迫ることはできなかった。
それでも何度か話しかけ、出で立ち、雰囲気など寿司職人にはまったく見えないが、以前は尼崎の名店和幸寿司で働いていたこと、長崎出身であることなどを知ることができた。
こうまでおいしい店はなかなかない。
夫婦でその人気ぶりに納得がいった。
それで9月以降、空いた席に尻をねじりこむように、来年1月にかけ毎月分の席を確保した。
これでまた日常を彩る楽しみがまた一つ増えた。
お腹も膨れ、夜風にあたりつつ帰りは歩いた。
その昔、夜になるとよくここらを家内とウォーキングしたものだった。
街の様子は今も昔も変わらぬが、暮らし向きが少しばかりマシになって二人の目に映る景色は様変わりしたように思う。