家内と外出すればたいてい歩数は二万に迫る。
が、この日曜はほとんど歩くことがなかった。
目覚めるとそこは伊勢志摩の海を向こうに望む、深緑の樹林に分厚く囲まれた一帯だった。
一瞬自分がどこにいるのか不明なくらい、意識は相当な深部へと至っていたのだろう。
満ち足りた寝起きで空腹を覚えず、昼に備えちょうどいいと思ったので朝食をスキップすることにした。
癒されついでに夫婦揃って階下へと降り、サ活に励んだ。
伊勢志摩の深部にて心身を開いて毛穴も開いてたっぷり無思考にひたっていつしか昼。
チェックアウトしスタッフに記念写真を撮ってもらい迎えに来たタクシーに乗り込んだ。
行き先は長太屋で、前夜家内が若きエスティシャン女子に教えてもらった店だった。
元々は松阪に出て何か食べるつもりだった。
が、松阪牛なら絶対に長太屋だとの助言を受け予定を変更したのだった。
この焼肉屋が正解だった。
これまでの人生は何だったのか。
伊勢志摩を訪れたなら今後はここ以外あり得ない。
家内が何度もそう言って、わたしは何度も頷いた。
今度はすき焼きのコースを頼もうと次回の抱負を語りながら目と鼻の先にある鵜方駅から特急に乗った。
特急の終着駅である難波で普通電車に乗り換え地元の駅で降り、小雨が降っていたからタクシーに駆け込んだ。
昼にたっぷり食べたから夕飯は不要。
何もしない充実の日曜、風呂をあがると不思議なことに体重が落ちていた。
よきデトックス効果で、無用なものが洗いざらい体外へと排出されたに違いなかった。