KORANIKATARU

子らに語る時々日記

今年も泊まりがけでお伊勢参り

乗り換えの際、鶴橋界隈で軽食を買ってドトールにて時間を潰した。

定刻、特急しまかぜに乗ってあっという間、伊勢市に到着した。

 

天気はあいにくの雨だったが、伊勢神宮に降る雨は繊細に映って柔らかく、神域の美しさを印象深く、更に神々しいものにしていた。

 

外宮から内宮をめぐり、タクシーで伊勢市駅に戻ってビスタカーで賢島まで運ばれた。

迎えのクルマに乗って、ホテルは目と鼻の先だった。

 

チェックインまでの時間を最上階のラウンジで過ごし、案内された部屋が結構良かったから即座来年正月の予約を入れた。

キャンセル待ちで40組が名を連ねているというからダメ元である。

 

サウナで旅の疲れを癒やし、夕飯はラ・メール。

味はもちろん接遇も含め完璧なフレンチレストランであったが、隣のテーブルに座る少年が気になった。

 

家族で食事しながら少年はiPadを注視して、そこから流れるゲームの電子音が耳障りだったから、夫婦で何度か目をやった。

太平楽を絵にしたようにのんきに構える父親はそれで何かを察する訳もなく、ひどく不器量な母親も周囲のことなど思慮の範疇外と見え、志摩の静寂な一角に馬鹿げたような電子音が鳴りわたり続けた。

 

しかしそこはやはり一流の店であった。

 

紳士然とした男性スタッフが少年の元に駆け寄って「音量を落としてください」と言葉をかけた。

それで母親が、そのみっともない図にようやく気づき、息子のiPadを取り上げようとしたのであったが、息子にとっては命より大事なiPadだったのかもしれない。

息子は椅子から立ち上がり、iPadを取り返そうと母親を連打した。

その光景をただ見つめる父親は相変わらず天下泰平といった風に見えた。

 

そうしてわたしたちはそんな赤の他人と我が子を引き比べ、より一層、我が子への愛を膨らませるのであった。

うちの息子らの場合、食事中はがつがつ食べて、ゲームに勤しむなどあり得ないことだった。

 

料理は素晴らしく、挨拶に来てくださった樋口宏江シェフに感動した旨を伝え、並んで記念写真を撮ってもらった。

長く思い出に残るだろう夕飯の時間を終え、家内はホテルのエステへと出かけ、部屋にひとり残って海と隣り合い、わたしは冷蔵庫のビールを飲んでワインを開けた。

 

漆黒の海からかすか波の音が聞こえ、夜になって強さを増した風が一帯に吹き渡り、窓を小刻みに揺らした。

そんなありありとしたような静けさに心が清まって、まもなく冷蔵庫にあったお酒はすべてわたしに飲み尽くされた。

2023年2月10日朝 特急しまかぜ 鶴橋から伊勢

2023年2月10日昼 伊勢神宮 外宮から内宮

2023年2月10日 志摩観光ホテル5階ラウンジ

2023年2月10日 志摩観光ホテル ザベイスイート4010号室

2023年2月10日夕飯 フレンチレストラン「ラ・メール」

2023年2月10日夜 家内がエステを受ける間、私は部屋飲み