KORANIKATARU

子らに語る時々日記

煩忙期を前にニンニク注射を受ける。


田中内科クリニックの午後の診察は3時から。
時間があったので真向かいにある阿倍野キューズモールを少しぶらつく。

午後3時と言えば「3時に会いましょう」が始まる時間である。
心霊写真のコーナーが懐かしい。

あの頃、日本人は若かった。
今思えば呆れるほどにオツム軽い企画であるが、視聴者は几帳面なほどに怖がって専門家と称する者のインチキ解説に居住まいを正したものであった。

大の大人が神妙な顔して恐怖しているのである。
子供であれば無理もない。
震え慄き、束の間のCMでサスペリアオーメンの予告が流れようものなら、一歩も身動きできず誰かが帰ってくるまでトイレにさえ行けないということになった。

キューズモールのテラスから見える景色を眺めつつそんな昔を懐かしむ。
今では現実の方が遥かに怖く、世の惨状惨禍を目にすれば無邪気に凝らした作り物の怖さなど卑小過ぎて微笑すら浮かんでしまう。

そしてそのように偉そうなことを言いつつも、三つ子の魂百まで、今でもやはりあのような番組を一人で見るのは怖いのであろうとも思う。
決して、一人では見ないで下さい、あのおどろおどろしいサスペリアのナレーションが記憶から消えることはない。
あの当時幼少を過ごした者は誰だってそう、集団PTSDみたいなものと言えるだろう。


田中院長の診察を受ける。

座った瞬間、日常のふんわり感が舞い戻る。
先ほどまで頭を占めていた心霊なども茶目っ気たっぷりな存在に思えてくる。

雑談交えつつ体調管理のための諸注意を受け、そして、定期の採血、引き続きニンニク注射を施してもらう。

季節の変わり目、適応力増すうえで、にんにく注射は必需だろう。


夕刻以降の予定が変更となった。
手付かず真白な自由時間が眼前に広がる。

自由の使いこなし方に人物の器量が如実に表れる。

天王寺アポロビルを横切り私の足は真っ直ぐ正宗屋へと向かった。
夕刻の時間、すでにカウンターは一杯ひっかけるおじさんらで鈴なりだ。
皆が皆、心中の荷を降ろして虚空を見つめ、いっときの解放に穏やか身を委ねている。

おじさんらの胸中を想像してみる。
おそらくまっすぐ家に帰ったところで、そこには野党の女性党首みたいな人がいて、いきなり代表質問、どうでもいいことについてどぎつい剣幕で吊るしあげられる。
とてもシラフではやり過ごせない。
であれば、正宗屋。
家に真っ直ぐ帰ろうかとお決まりのように毎日逡巡はするのだが、まるで土俵の北の湖、決まって軍配は正宗屋に上がる。

椅子もテーブルも何から何まで造作は男仕様。
見知らぬ同志と隣席し肩並べればこれほど励まされることはない。
それに料理だってナニワを代表する旨さであるといってもいいレベル。

男子が憩う景色を横目に私はいいだこ煮、どて焼き、きずし、まぐろ、はまち、蒸し豚あぶり、にんにく唐揚げと平らげビールは三本でちょうどいい具合のほろよい加減。

男の渇きが癒やされる。
ここはオアシスだよ、おっかさん。We are the world.
おじさんらの胸の内を代弁すればそのようなシャウトとなることであろう。

もし正宗屋がなかったら?
551の蓬莱がないときレベルの騒ぎでは済まされない。
男子の瘴気には目も手もなく心霊写真には写らないが行き場失えば心霊よりもはるかに始末が悪く野放しすれば災禍を招く。

正宗屋が定休日である火曜日も営業するとなれば無数の男子が喝采送る朗報となることであろう。


自宅に戻る。

隣家のピアノの音が裏庭を吹き渡って、ちょうどいい具合の音量でこちらに届く。
耳を傾けつつ寝床に入る。

まもなくシルバーウィーク。
出かける予定は何もない。

仕事に明け暮れる年末の時期がまた訪れようとしている。

追記
今朝、快調。ニンニク注射が疲労を除去し心身を再生してくれた。
いつもありがとう、タコちゃん、チュッ。

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