はっきり言って記憶がない。
真夜中、事務所で目覚め、心底根暗な気分に陥った。
調子にのって飲み過ぎてしまったようだ。
反省すべき態度や言動はなかったか。
何も覚えていないので振り返りようがない。
知らぬが仏とはいかず、むしろ薄気味悪くて肩が落ちる。
場所はミナミの名店、知る人ぞ知る杓子屋。
久々夜の宗右衛門町を歩いて驚いた。
アジア版ピカデリーサーカスといった様相だ。
道行く人はみな異郷の人。
一瞬耳を疑った。
ダイコクドラックの呼び込みは中国語だった。
しばし耳を澄ませた。
色とりどりのネオンによく馴染む、美しい音色であった。
杓子屋は路地の奥まった場所にあった。
二階座敷を借り切っての記念すべき飲み会。
そこにたどり着き、ビールを飲み始め日本酒になりワインになった。
とても楽しく和やかに会ははじまり、そしてわたしの記憶はそこまでだった。
どう過ごしどんな話をしどう事務所まで帰ったのか、手元に引き寄せる手がかりが一切ない。
美味しい料理だったはずだが何を食べたのか記憶の断片すらない。
いつもなら料理の写真を撮るのにこの日に限って一切何も残っていない。
心ぼそいことこのうえない。
アメリカ大統領選の結果に世界がざわついた日、わたしは夜の記憶を失った。
記憶がなければ、なかったも同然。
なんだか悲しくやるせない。