仕事の納期が迫っていてたいへんだ。
そう言ったあと友人が続けて発した言葉に息を呑んだ。
女性は子を産めば産むほど男になっていく。
一人産めばタマが二個になり二人産めば四個になる。
だから並の男子が敵うはずがない。
友人は溜息をつき、そして黙り込んだ。
沈痛な表情であった。
タマを房々と左右に揺らして徘徊する伝説の生き物。
わたしの頭のなかおぼろながらその絵柄が像を結び始めた。
が、命名の方はなかなかうまくいかない。
麒麟でもユニコーンでもドラゴンでもない。
あれこれ頭を巡らせようやくたどり着いた。
キンタマコング。
この日、友人の嘆息をきっかけとしてひとつの言葉が生まれた。
そしてこのたったひとつの言葉が友人の世界を変えた。
彼は言った。
相手が女性だと思うから憤ってしまうのだ。
憑き物が落ちたみたいに彼の顔は晴れ晴れとし一点の曇りもなかった。
その実像がキンタマコングなのだと知れば腹を立てるも何も、激甚災害に遭遇するようなものであって命あるだけ有り難いという話ではないか。
友人の表情に笑顔が戻った。
彼だけではないだろう。
多くの男子がこの言葉によって謙虚であることの何たるかを悟り、腹座るような思いとなるのではないだろうか。
猛獣使いになるなど夢のまた夢。
見果てぬ夢は捨て去るのが身のため世のため。
それで心健やか過ごせるのであれば、夢か平和か秤にかける必要もないだろう。