阪神勝ったで。
わたしの顔を見るなり、二男は言った。
彼にとってこの日が今季の初観戦。
学校の友人らを引き連れて即興のトラキチカルテットを結成、大阪ドームに乗り込んだ。
糸井のホームランが鮮烈だったようだ。
左バッターが放つ大飛球は美しく、誰だってその軌跡に見惚れて息を呑む。
かつて田淵と掛布はスラッガーとしてライバルであったが、22と31のTシャツが目の前にあれば、31を手にとるのがトラキチ少年にとっては当たり前のことであった。
野球については左右対称といった原理は成立しない。
掛布の飛球の方がはるかにクールで、だから31は男子の美意識と結びついていた。
おかんが22のシャツでも買ってこようものなら、少年はむくれてふさぎ込んで、おかんの無知を呪うしかなった。
クールな飛球をかっ飛ばす打者はいまタイガースの生え抜きのなかには見当たらない。
糸井がいなければ、少年らの目に焼き付くものがなにもない、というチーム事情と言うしかないだろう。
つまり彼が虎の子。
そのおかげで、二男は虎が放つ値千金の大飛球を目に焼き付けることができた。
そして、今夜はバトンタッチし、長男がドームに向かう。
二男チームは思い出深いゲームを堪能できた。
さあ、長男チームは今夜どんなプロの美技を目にすることができるだろう。
興奮冷めやらぬといった表情での帰還を待つ。