遠く過ぎ去ったが強烈な体験だったからだろう。
風が肌寒さを増す季節になると中学受験のことを思い出す。
すでに11月も半ばを過ぎ、統一試験日まで後2ヶ月を残すのみとなった。
長男のときも二男のときも同じ。
漠とではあっても日に日に緊張感が増していった時期である。
合格するだろう。
そうは思っている。
頑張ってきたし順調に見える。
悪い結果などあり得ない。
しかし何をどう思おうが合格と保証されている訳ではないのもまた確かなことだった。
目の当たりにする結果がどのようなものであるのかは実は未知。
合格か不合格かなど、全く定かではないのである。
積み上げてきたプロセスを振り返り、頑張ってきた子の気持ちに思いを馳せてみる。
努力は結実するのだろうか、あるいはすべてが水泡に帰すのか。
その不確かさは恐怖以外の何もでもなかった。
中学受験について思いを巡らせると、いまだ悪い夢を思い出すかのような感にとらわれる。
そしてその前座に導かれるようにして、思考は大学受験に移る。
関西の中学受験統一試験日と大学入試センター試験は同日。
うちの本番はまだ一年先だが、そろそろ本気モードに切り替えるべき頃合いと言っていいだろう。
否が応でも、入試のピリピリムードがあたりに忍び寄る。
この先の一年を一気に駆け抜けるうえで、この瞬間を捉えて波に乗ってしまうことが幸先いい出だしにつながっていくに違いない。
好都合にもセンター試験と同日に同一内容で模試があり、東大の二次試験についても同じ日に同じ問題をこなすという模試がある。
夕方から深夜にかけてぶっ通しの長丁場で二日間に渡るから過酷であるが、ちょうどいい前哨戦。
そこがテストマッチとなって真剣勝負の一年へとなだれ込んでいくことになる。
試験が終わる夜11時、長男を迎えに行ったことが懐かしい。
長男がフォワードとして道を開き、二男がそのスペースを駆け抜ける。
それがうちのスタイル。
先を行く兄の様子を見て、それを手本にあるいは反面教師にして弟は本番に臨める。
だからだろう、長男も学校でずっと上位だったが二男は軽く長男の上を行っている。
ただ、部活の負担については長男と異なってくる。
西大和では高二で部活が終わるが星光は高三まである。
しかも、来夏、二男らは全国大会出場を目指していてその実現可能性は高い。
これまでは子らに余暇も楽しんでもらおうと映画や漫画を勧める悠長な親であったが、部活に真剣に打ち込み勉強にも精一杯取り組まねばならないこの一年に限っては、娯楽提供は封じざるを得ない。
そして、親も同様、息子と同じテンションになって過ごす一年となる。
余計な口出しはせず、黙して伴走するかのように一生懸命仕事に励むことが、以心伝心、男としての声援になるだろう。
入試には合否がある。
受かればとろけるが、落ちると辛い。
全部落ちれば、四方から放たれた不合格という矢にめった刺しにされて息絶えるといった惨状も同然、立ち直り難いという話になるから、そうならぬよう親としてできることは全部やるというスタンスになる。
いちばん大切なことは、親が心落ち着け、地味で静かな一年を過ごすこと。
不合格という矢は、何も試験の最中だけでなく日頃の暮らしの場にさえ飛んでくる。
親が浮かれていては矢を招く。
家族一丸、息を潜めるようにして匍匐前進することになるが、一年などあっという間、皆で旅して遊んで笑ってはしゃげる日がまたすぐに訪れる。