朝7時、家族四人でバイキングの会場に向かった。
ふんだんに料理が用意されるなか、男三人は海鮮の具を集めて丼にし、家内はおにぎりと小品を幾つか選び、最後は四人共通、明石焼きでしめた。
食べ終えてそのまま地階の風呂へと移動した。
展望浴場より地階の方が豪華に思える。
軒先が自然に接し、地に足ついてくつろげる。
客はほとんどおらず、広々とした空間を三人で貸し切っているも同然と言えた。
サウナに入ってわたしはこの顔ぶれでの風呂遍歴を語った。
小さな家風呂に昔は三人一緒に入っていたこと、自転車の前と後ろに乗せ近所の銭湯に通ったこと、あま湯や熊野の郷、芦屋温泉、事務所近くの銭湯など数々の場所で風呂に入ってきたこと。
だからこそ分かる。
記憶の中で小さく結ばれた像が、眼前の二人を前にし一気に拡大する。
ずいぶんと大きくなった。
サウナの後は、それぞれ金や銀の湯に浮かび、無言でぼんやり過ごした。
湯上がりにマッサージチェアに並んで、これまたほぼ言葉交わさず小一時間安らいだ。
部屋でまた二度寝して、三者三様に青空を眺めて弛緩した。
窓から入り込む冷気が気持ちいい。
こののんびり感は格別であった。
11時にチェックアウトし、ロビーで珈琲を飲んでからクルマに乗り込んだ。
有馬を今後の恒例行事にしようと長男が言った。
それを受けてわたしは提案した。
兄弟で毎年交互に企画するのはどうか。
それぞれ家庭を持っても順番に幹事になって声をかけてくれればどこへでも行く。
二男は言った。
66期の浪人生が合格した後の卒業旅行の候補に有馬を挙げる。
それに対し家内は言った。
近所ではなく松山あたりがいいのでは。
わたしも家内に賛成した。
有馬は目と鼻の先、いつでも来れる。
記念碑的な思い出の地を別途こしらえた方がいい。
車中、そんな話をするうち三田プレミアムアウトレットが見えてきた。
思った以上に混んでいた。
なんとか駐車場に潜り込み、目的をすみやかに完遂できるよう行程を確認し合った。
まずはラルフローレン。
息子がかっこよくなると思えば混み合う店内も厭わない。
試着に付き合い、そして購入のための長い列に並んだ。
ナイキは70分待ちだったからトレーニングウェアはアンダーアーマで選ぶよう指示した。
3点以上買えば20%オフになってお得。
いまのうちに買っておこうと合図して、それぞれ選び、最終ランナーのごとく品を受け取りわたしがレジに並んだ。
買物を終えれば長居は無用。
さっさと帰途についたが、ナビの指示に従っていると新名神に入ってしまって家からどんどん遠ざかることになった。
列車から飛び降りるみたいに、川西インターで高速を降りた。
延々と南にくだり家まで一時間ほどかかったので、はじめから下道を選んだ方がはるかに早いという話だった。
車中で長時間過ごして空腹だった。
早速、家内が鍋の支度を始めた。
食材はいくらでもあった。
まずはぼたん鍋の準備が整った。
赤ワインが開いた。
フグとクエが同居する鍋が続いた。
ここで日本酒を開けた。
ドクター・オクトパスにもらったドンペリ2010は飾るだけにし、次の機会に四人で開けようとなった。
ぼたん鍋の出汁で作ったおじや、ふぐ&くえの出汁で作った雑炊でしめ、皆の腹は十二分に膨れた。
食後、長男と二男と家内がソファにもたれて並んで映画『犯罪都市』を見始めた。
残酷なシーンで家内は若き女子みたいに目を伏せて、両隣は屈強男子であるから安心なことこのうえない。
家内にとっては幸福な時間であっただろう。
同時に息子らは息子らで子供返りしたのかもしれない。
肩寄せ過ごす姿はちびっ子当時を彷彿とさせた。
家族みなにとって原点に立ち返る、実にいい正月休みになったとわたしはしみじみ思った。