朝、実家に寄った。
どうやら夏は盛りを過ぎたのだろう。
引き続き暑いが、日陰には微か冷涼が潜んでそこに秋の片鱗が垣間見えた。
それでもビール一箱を担いで歩くとどっと汗が噴き出して、それなりへばった。
実家ではいつものとおり古ぼけた扇風機が2台まわって、どんよりとした居間の空気をほんの少しだけそよがせていた。
まるで夜の海を照らす灯台の光のようなもの。
風に当たるときだけ虚脱が癒えて生気が灯った。
父と特に言葉を交わす用事はなかったが、息子たち二人の話が鉄板でそれできちんと会話が成り立った。
絶対的な話題がある。
それはとても恵まれたことなのだった。
じゃあ、と汗もひかぬ間にわたしは実家を後にした。
環状線で大阪駅まで出て阪急電車に乗り換え塚口駅で降りた。
上島珈琲でお茶しているとまもなく家内が現れた。
ではとわたしが誘って駅前のうなぎ屋に入り、いちばん高いうな重を2つ頼んだ。
国外産の冷凍うなぎをフライパンで炒めているだけ。
家内はそう見切って焦げ目を箸で除け、うなぎはか細い姿へと変貌していった。
削りに削られるその様子をずっと目にして、そこはかとない共感をわたしはうなぎに寄せていた。
だから終始上の空だった。
が、話題は今後の旅行のことで、わたしたちにとって旅は鉄板とも言える絶対的なテーマであるからまあそれなりに会話が成り立った。
食べ終えて旅券事務所へと移動してそれぞれ新しいパスポートを受け取った。
有効期間は10年。
旅友の要素を含んだこの夫婦の腐れ縁はまだ当分積み上がっていく一途のようである。