童顔の面影まだ残る若き事業主らがうちの事務所を訪れた。
独立するからには挨拶しておけ。
親方にそう言われ、何が何だか分からぬまま真っ先に顔を出したということであった。
二十歳そこそこの若者が各自思い定めた屋号を背負って自営することになる。
現場で叩き上げられたが、手続きにまつわるあれやこれやには疎く経営の実務について知識も青写真もない。
ただ、やる気だけは誰にも負けない。
秘めた闘志のようなものは熱くたぎっていた。
先輩同業者の事例などを取り上げ今後の流れについてわたしは講釈を垂れる。
話が具体的になって当事者意識が喚起されたのだろう、彼らの熱心さが増していきそれに連れわたしも大いに盛り上がることになった。
一緒に歌い合った仲、とでもいった一体感が最後には醸成された。
彼ら稚魚たちが、やがて大きくなってまたここに戻ってくる。
そんな絵がクッキリ目に浮かび、わたしは自身の仕事に深い喜びのようなものを感じていた。
昨晩の光景がふと頭に浮かぶ。
家内と二人向き合ってお酒を飲んで、昔話に花が咲いた。
子らが小さかった頃、わたしは週末も仕事をしていた。
だから家内が父親代わりとなって、子らをあちこち遊びに連れて出かけた。
それをたいへんだと思ったことはない。
家内はそう言う。
その言葉に子らへの愛情の深さが表れている。
わたしはそう感じつつ、家内の話に耳を傾けていた。
枚方パークで仮面ライダーショーの催しがあって、そこに子らを連れたことがあったという話になった。
当時の場面に意識が向いて記憶が記憶を呼ぶのだろう。
家内の話が鮮明度を増していった。
長男がこんなポーズをしたとか、二男がこんな格好ではしゃいだとか、こんなことを言った、こんな服を着ていたなど、数珠つなぎでディテールが浮かび上がって話が尽きない。
が、楽しい会話であるはずなのになぜなのだろう、ひとしきり話し二人してほんのりうっすら涙目となってしまった。
あっと言う間に大きくなって、そうこうするうち二人は巣立つ。
いつか訪れる寂しさの予感のようなものが、涙を誘ったのかもしれない。
そんな場面を思い出しながら、未来へと漕ぎ出す若き事業主らをビルの前まで見送った。