KORANIKATARU

子らに語る時々日記

用済みになれば相手にもされない

備前焼まつりに出かけよう。

そう約束していたので、朝5時に起きわたしはスタンバイしていた。

 

家内も起き出し子らの朝食を整え、後は出発を待つばかり。

しかし日頃の疲労があったのか家内の動きに迷いが見えた。

 

次の日には地元の公園で地域対抗の運動会が控えている。

近隣の企業も総出で盛り上がるちょっとした規模のイベントである。

 

家内は指名を受けて地区の招集係を担っていた。

休むなど考えられずここで体調を崩す訳にはいかなかった。

 

それで予定を変更。

外出をとりやめ家でのんびりすることにした。

 

ゆっくり過ごすのであれば映画だろう。

先日KBSで放映された『江南ブルース』を家内が録画していた。

それを二人で観ることにした。

 

ソファにもたれて、くつろぎの時間。

窓の向こうには雲ひとつない青空がひろがり、そこから冷気含んだ新鮮な風が吹き寄せてくる。

風はわたしたちを通り過ぎ、反対側にあるベランダの窓へと抜けていく。

 

映画の主人公は若き男子二人。

兄弟である。

親はなく身寄りもなく、貧しい。

 

頼れるのは互いの存在だけであり、その他には気力と体力があるだけだった。

身を立てる術はなく日々の暮らしにも困窮しているが、ひょんなことから反社会的な組織に拾われることになった。

 

ある大荒れの乱闘の渦中、兄弟は生き別れる。

しかし腕っ節強く肝も据わった二人である。

それぞれが別々の組織のなか頭角を現していくことになった。

 

折しも彼の国は高度経済成長の端緒に差し掛かっていた。

舞台裏で繰り広げられるパワーゲームのコマとして彼らはうってつけだった。

 

そして、暴力でさえ消費される。

用が済めば、おしまい。

それが資本主義の生理のようなものと言えるのだろう。

 

兄はクルマの中、弟はトンネルの中。

最期を迎えた場所が、用済みとなった人間の物悲しい立ち位置を如実に物語っていた。

 

もしわたしが彼らの親であれば、生きた心地せずソファになどもたれていられなかっただろう。

 

うちにも息子が二人。

ハラハラドキドキの度は遥かに及ばないにせよ、心配事が絶えることはない。

楽しいこと嬉しいことも多々あるが、手に汗握ってという場面と無縁になるのは叶わぬことであるようだ。

 

人生いろいろ。

いろいろな時期をいろいろな思いで過ごすのが人生であるから、当然、いろいろなことがある。

 

だから彼らに粗相があっても、わたしは滅多なことでは怒らない。

事が起これば理由を尋ね、これからどうするつもりなのかを聞き、いくつか意見を述べて後は見守るだけ。

 

家内からすれば物足りないかもしれない。

が、わたしだって十代を過ごしたことのある経験者。

 

彼らの内心はわたしからは透けて見えるも同然で共感が先に来る。

干渉して何かが成ることはなく、怒って何かが改まることはない。

それをわたしが一番よく分かっている。

 

しかし最近一度だけ強く怒ったことがあった。

 

一見些細なことであるから、なぜ怒るのか理解しがたい話であったかもしれないが怒らないと分からない話でもあっただろう。

 

ある日の夕刻。

息子が出かけようとするので、どこへ行くのかとわたしは尋ねた。

 

焼肉を焼いた残りがあるから食べにおいでと誘われた。

彼はそう言った。

 

「これから焼肉をするからおいで」という誘いならわたしにも理解できる。

 

皆で焼肉をわいわい楽しく焼いて食べ、その焼いた残りがあるから食べにおいでとこの時間になって言ってくるのはどういうことなのか。

しかも保護者である親に何のことわりもなく。

 

残飯にありつこうと遠路を押し、いそいそ出かけようとするその姿が情けない。

 

わたしたちは庶民であるが焼肉くらいなら自前で食べることができる。

息子に美味しいものを食べてもらおうと食事に毎日心を砕き骨を折る母もいる。

 

視点を変えて考えてみれば分かるのではないか。

 

たとえばわたしたちが焼肉を食べて満腹になった後、焼いて残った肉があるから食べにおいでと、急に思いついて遠くに住む誰かの息子に声をかけるなどあり得るだろうか。

そんな失礼極まりないことするはずがないし、できるわけがない。

 

伝え聞くところ、浮きに浮いて愚かしく醜悪とも言える日常を過ごす人であるようだから何についても思慮を欠くのだろう。

 

わたしは息子に言った。

 

全く大事にされていない。

何か向こうの都合があって、用でも急に思いついて呼ばれただけである。

用がなければ声はかからないし、用済みになれば相手にもされない。

 

世には大事にしてくれる人とそうでない人がいる。

そうでない人に尻尾振るような男になるのであれば、親として死んでも死にきれない。

 

息子に伝わったのだろう。

用事ができたので行けないと彼はラインで返事を送った。

息子がバカ見る姿を傍観せずに済み、わたしはほっと胸を撫で下ろした。

 

『江南ブルース』を見終えた後、河川敷をひとっ走りしわたしは事務所に向かった。

 

急迫の仕事は何もなかったが週明け業務の支度を整えてから風呂に行き青一色の空を仰いで露天風呂でカラダを伸ばした。

 

そして夕刻、家内に頼まれた食材と夜食を買うためクルマを走らせた。

たまには家内にも楽をしてもらわないといけない。

こんな土曜も必要だろう。

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2018年10月20日 朝食と苦楽園でテイクアウトしてきた夜食