場所は夙川。
午後8時。
駅を降りてまず緑の香を含んだ秋の冷気に心いやされた。
清流せせらぐ水の音も心を落ち着かせてくれる。
やはり夙川。
出だしから凡百の場所とはおもむき異なる。
アルテシンポジオは川を渡って南に向いてすぐのところにあった。
イタリア料理の名店である。
この夜わたしは夕食に招かれた。
招待主は33期の谷口くん、岡本くん、高岡さん。
同窓会の準備に奔走したわたしを慰労してくれるというのだから嬉しい。
持つべきものは友である。
ちなみに幹はいつまで経っても現れなかった。
きっと忘れていたのだろう。
スパークリングで乾杯しコースがはじまった。
一品一品がとても洗練されていて、すべてに目を丸くすることになった。
料理とじっくり対峙するような心持ちとなるから、会話も腰据えたものとなっていった。
近況が語られ、はじめて耳にするような思い出が語られた。
イタリア料理だからだろう。
ニューシネマパラダイスやライフイズビューティフルといったイタリア映画の話になって、父たる者としてそれぞれの思いも語られた。
もちろんワインも素晴らしかった。
岡本くんが先導し、一風変わってしかしじんと染み渡るような銘柄が選ばれた。
白もよかったし、赤もよかった。
途中、驚いたことがあった。
隣席は若い男女。
どう見てもデートだった。
青年は常にこちらを気にするような素振りを見せていたが、饒舌だった。
女性はうんうんとその話にうなずきつつ、じっとその男性の顔を凝視していたので、話の内容など実はどうでもよかったのではないだろうか。
会計となって青年が目の前の女子に言った。
八千円ね。
それでわたしは度肝を抜かれて当の隣席に目を走らせた。
小さな財布から千円札を一枚ずつ女子が取り出し計八枚を青年に手渡した。
近頃の男女は割り勘が当たり前。
そう聞いてはいたものの目の当たりにしてわたしは言葉を失った。
いい店であればあるほど男子が意地を見せるべきだろう。
八千円ね、が饒舌のエンディングであるなんて。
せっかくの思い出にケチがつくといったようなものだろう。
その他、品のいい老夫婦の姿があった。
調度よく雰囲気がよく、スタッフの説明も身のこなしも申し分なかった。
とてもいい時間を過ごすことができた。
今後、各自が家族を連れて再訪することになるであろうし、また皆でここに集まることにもなるだろう。
ほんとうにすばらしいイタリアンだった。
谷口くん、岡本くん、高岡さん、ありがとう。