帰り支度をしていると息子から電話が入った。
これから算数の授業だという。
相手は小学4年生19人。
思い浮かべるだけで微笑ましい。
2017年西大和祭で総合司会を務め、オープニングとエンディングの短編動画を制作し、自らも舞台で歌って踊ってラップした彼の授業ならわたしだって受けてみたい。
真面目に勉強を教えるように。
そう息子に伝えたが、真面目にしてさえオリジナルなキャラは滲み出るものであるから、子どもたちは大いに楽しむことになるだろう。
家内に伝えると、家内も笑った。
思えば一年前のこと。
学校の夏休み特訓には参加せず、彼は塾で勉強する道を選んだ。
考えに考えた末の結論であることが分かったのでわたしは本人の意思を尊重した。
そうしてはじまった夏休み。
数日後、長男が不在の教室で西大和の学年主任が嘲って断言した。
あいつは300%の確率で全部落ちる。
一瞬、教室は静まり返り、しかし教師につられて生徒も笑った。
それを伝え聞いた息子は戦意喪失寸前というほどのショックを受けたが耐えて踏ん張って持ちこたえた。
英数の仕上がりからみて300%落ちるなどあり得ない話であったので、親であるわたしは、言う事を聞かないやつは卒業させないという脅し、人質がどうなるか分かっているのか、そういう意味に受け取った。
大学に合格しても卒業できないとなれば大学生にはなれない。
そんな最悪の事態が頭から離れず、手を打つ以外、その憂慮から解放される道はなかった。
幸い、高卒認定試験の締め切りにはまだ間があった。
その認定があれば土壇場で学校に干され袖にされても大学には入学できる。
いつも親身だった担任の先生からは時間の無駄だから考え直すよう言われたが、300%落ちるという呪いを解くにはそれしかなかった。
文科省が定める必要単位は高2の時点ですべて取得済みであった。
しかし認定を得るには少なくとも一科目の受検が必要だった。
英語と数学。
どちらでシュートを決めても良かったが、息子は英語を選んだ。
土曜の試験会場。
いろいろな人が受験会場にいて、ほんとうにいい社会勉強になったと息子は言った。
そして試験さえ受ければこっちのものだった。
最後にハシゴを外されるのかもしれないという受け身の恐怖から晴れて解放されわたしたちは心の底から安堵した。
早慶を受けるなど軟弱の徒。
西大和の学年主任はそう生徒にはっぱをかけ、その空恐ろしいほどの東大至上主義がブレることはなかった。
そこに横たわる価値観を思うとき、微塵のリアリティもなく戦争と口にするあの政治家がどこを経て東大に至ったのか、腑に落ちるような気がしないでもない。
生徒は教師の言葉を忘れない。
ささやかであれ、ちびっ子たちに必ず良き作用をもたらすのだと、気を引き締めて息子には頑張ってもらいたい。