京都駅の改札を出たところからすでに大混雑だった。
コンコースは外国人旅行客や修学旅行生らで埋め尽くされ、ほんの少し歩いただけで、仕事後の散策を楽しもうといった悠長な気持ちが一気に萎えた。
先に家内へのおみやげを買っておこうと肉弾を押しのけかき分け、伊勢丹の地下へと分け入ってリクエストのあった和久傳の弁当と仙太郎の涼菓を確保した。
これであとは自由の身となったが、混み合った場所では伸び伸びとできる訳がない。
それで自然と足はひと気のない方へと進み、食事する店も人が極度に少ないところを選び、そして人が少ないことがすべてを物語っていて数品口にしただけでわたしは席を立った。
せっかくの京都であったが、ここまで人が多いと情緒もへったくれもない。
わたしはすごすごと退散し夕餉の場所を変えることにした。
満員の新快速で棒立ちになること30分余り。
車中、食べログで検索し、駅に名店が近接していると分かって、わたしは尼崎駅で途中下車した。
何度も通りかかった場所であったが、わたしは何度も素通りしていたのだった。
ひっそりと佇む入り口に身をかがめるようにして店内へと忍び入り、幸い空席があって無事にわたしは飲み直す機会を得られた。
刺身盛り合わせ、あわびのバター焼き、牡蠣フライ、大海老の天ぷらと頼めば店のレベルも自ずと分かる。
まさに灯台下暗し。
京都が大混雑だったおかげで、わたしは身近にあるいい店と巡り合うことができたのだった。
女房への土産を手に提げて、ぶらりのんびり地元の道を歩いていると、やたらと明るい極細の三日月と宵の明星が視界に入った。
曇り空を押し除けるようにこの2つの星だけがくっきり輝いていたから、わたしはしばし西の夜空を眺めてその光に見とれてしまった。
金星の高さから推察するに、これからしばらく金星はその明度を増していくであろうから、毎夕、その姿が見逃せない。
地元にいても十分楽しい。
夜空を見上げてつくづくそう思った。