ジムとプールを終え、部屋に戻った。
室内に洗濯機があり便利なことこの上ない。
長男も二男も東京大学の受験に向け二週間あまりをホテルで過ごした。
当時、ハイアット・ハウスみたいなホテルがあればどれだけ重宝したことだろう。
そんな話を家内としながら部屋を出て代官山あたりを歩いた。
黄色がシンボルカラーなのだろう。
やたらとイエローな感じの店があって目を引いた。
店の名はBro Sandwich Tokyo、そこでサンドイッチを食べコーヒーを飲んだ。
アパレル出身だという若い店主の腰がやたらと低く、単に通りすがりでトイレを借りただけの通行人にも平身低頭であったから、筋金入りの低姿勢と言えた。
店の黄色と相俟って、その人柄が強烈に印象に残った。
空は晴れ渡り、5月の余韻が残る微風に木々が小刻み揺れ、五感全部が心地いい。
だからそのまま恵比寿まで歩くことにした。
アロハ・フェスとやらが開催されていて人がひしめき恵比寿ガーデンプレイスには近づけなかった。
それで隣接するサッポロビール本社横の公園へと退避して、その緑陰に腰掛けてそよ吹く風に心を澄ませて過ごした。
夕飯の店は目の前にあった。
肉が食べたい。
そう二男が言ったから、ステーキ屋として最も歴史あるピーター・ルーガーを予約してあった。
ピーター・ルーガーが本流中の本流でこれまで訪れたウルフギャングもキングダムも突き詰めればその亜流に過ぎない。
そんな由緒正しき店にて夕刻、夫婦で先に乾杯しビールを飲んでいると、まもなく二男が現れた。
久々会って、その男っぷりに目を見張った。
体格よく男前。
そして話して貫禄十分、なんて頼もしいのだろう。
長男がいて、二男がいる。
そんな心強さをひしと感じた。
彼を挟む形で食事して、いろいろな話を聞く。
やはり友だちの話がいちばん興味深い。
ここ最近つるんで遊ぶ友人は同じ早稲田の男子であるが、元を辿ればその出会いは大阪星光の入学式の日にさかのぼる。
入学式の日、梅田の定期券売り場で隣り合い、そのとき二人ははじめて言葉を交わした。
つまり星光に入って最初に口をきいた同級生とも言え、そんな仲が舞台を東京に移した後も継続し、この先、一生引き続く。
親はそんな話を聞くと心底嬉しくなって楽しい気分になる。
裏の貯蔵庫で十分に熟成させたという肉はかなり美味しく、3人前のステーキがまもなくすべて食べ尽くされた。
ジムを終えたばかりだという二男はもちろん更に肉を欲し、続いてはリブアイステーキを追加してハンバーガーも特別に注文した。
食べて美味しく、店の人はめちゃくちゃフレンドリーで心優しく、これまでのなか間違いなく筆頭にあがる幸福な食事になった。
店の前からタクシーに乗りホテルへと戻り、溜池山王を特集するアド街ック天国をみながら部屋で軽く飲みスペイン土産などを手渡した。
お酒も尽きたところでお開きとし地上階まで降り、駅へと向かって歩く二男の背を夫婦揃って見送った。