クルマで駆け廻る月末である。
ハンドル握れば脳の周波が移ろって意識が変性する。
ある種の静けさのなか身を置かれたような状態となる。
思考の出力にも変化があって面白い。
だからたまには長時間運転するのも悪くない。
この日は大阪北河内某所。
さる資材置場が集合場所となった。
待ち合わせよりも早くに到着し、しばし待つ。
がらんとした空き地のような場所。
隅に資材がぶっきらぼうに積み上げられている。
ときおり師走間近の冷たい風が吹き込んで砂塵が上がる。
塀際ではさっきから警察が現場検証をしている。
被疑者という札を前後につけた刑事が二人、塀を乗り越え置場のなかを歩く。
その後に鑑識が続いてメモを取り写真を撮る。
窃盗事件でもあったのだろう。
殺風景な場所を舞台に演じられるサイレント映画の一シーンのようにも見える。
わたしは運転席に座りながら、その無音の劇をぼんやり眺める。
まもなく迎えのクルマがやってきた。
それに同乗し打ち合わせ場所に向かった。
終わったのは夕刻。
事務所に連絡だけ入れわたしは仕事をあがった。
クルマ走らせ帰途につく。
和らかの湯に寄る。
明日も長く運転することになる。
運転の疲れを持ち越さぬため風呂は必需だ。
つぼ湯につかって弛緩する。
視界に感じられるのは夜空を背景に灯る露天照明の微光だけ。
意識まどろむ。
すぐ上にスピーカーがあって、クリスマスソングが静かな音量で流れている。
ウォークマン聴く猿みたいになって沈思の時間を過ごす。
せっせと労務に服したあとは、静かな場所でゆったりするのが一番いい。
静けさが何より心を癒やす。
風呂で過ごして小一時間。
まもなく子らの顔が浮かんでくる。
そろそろ帰ろうと、湯を上がった。