難しい判断だった。
水曜日、ドラゴンズ戦のチケット2枚が手元にあった。
息子も行かないし家内も行かない。
当日の朝一番、天六のいんちょを誘おうと思うがあいにく天気予報は雨。
観るつもりで中止となった場合の落胆は計り知れない。
だから連絡するのが躊躇われた。
天気予報を横目にしつつ業務を行う。
雨が回避されそうならそのときになって声をかければいい。
もし天六のいんちょの都合が悪かったとしてもトラキチは星の数ほどもいる。
カネちゃんやタコちゃん、それに姜先生。
安本先生だって駆けつけてくれるかもしれない。
そのようなことを思い巡らせつつ、いつのまにか夕刻。
どうやら天気は持ちそうだ。
これなら大丈夫、いざいかんと帰り支度をはじめたところで、突如強い雨が降り始めた。
やはりこんな天気のときに屋外に連れ出すのは申し訳ない。
誘ったにしてもかえって迷惑なことだろう。
わたしは野球観戦を諦めた。
もしチケットを持っていたとしても他の誰もが同じ状況判断をしたに違いない。
姜先生など奈良からわざわざ雨をおしてくるはずがない。
そこまでの労を割くはずがない。
わたしは野球の代わりに終業後の事務所でひとり映画を見始めた。
『ユダヤ人を救った動物園』
勇敢であることは生易しいことではない。
相手がナチス・ドイツであれば尚更。
しかしそれに立ち向かった人たちが実在した。
そうと知るだけでも勇気づけられる。
卑屈にひれ伏すだけが人間ではない。
だからこうして人類は生き長らえている。
映画世界の余韻にひたりながら家に戻る。
リビングにあがると開口一番、二男が言った。
タイガースが逆転で勝利した。
悪天候にもかかわらず野球は行われていたのだった。
しかもスコアは6対5。
見ごたえのある試合であったに違いない。
寝支度を終え床につく。
毎夜の習慣。
姜先生のブログを覗く。
なんと。
この日のタイトルは『きょうクリいんちょうブログ : 甲子園!』。
行っとるがな、姜先生。
トラキチの信仰心は厚い。
奈良から電車をつかって姜先生は雨の巡礼に赴いたのだった。
どうやらわたしは考え違いをしていた。
彼らトラキチは雨にひれ伏すようなひ弱な者らではなかった。
天六のいんちょだってタコちゃんだってカネちゃんだって雨が降ろうがトラの援軍に加わったに違いなかった。
雨に濡れながらも声張り上げる彼らトラキチの顔が思い浮かんで、なんだかとても強く励まされるような思いとなった。