週が明けての月曜日、仕事をこなしその世界に没入しつつも、合間合間、週末の光景がパラレルによみがえる。
その光景が一服の清涼剤となって、仕事の進行に伴って生じる疲労と緊張を和らげていく。
だから仕事に縛られる時間も苦もなく過ごせる。
やはり週末は遊んだ方がいいと言えるだろう。
台風が最接近する日曜日、あまり遠くに行くのは無謀に思え近場に足を向けることにした。
行き先は奈良法隆寺。
目当ては名店平宗の柿氷。
古代建造物が立ち並ぶ街をぶらり歩き、よりにもよって肌寒い雨の日に氷を食べる。
酔狂な話であって面白い。
記憶の最前線に強烈に刻み込まれるかき氷となるに違いない。
現地に着くと台風の影響もあってか人出は極小。
裏寂れた感が実によく、雨に寺院がけぶって土壁が濡れ、飛鳥の時代の人影を幻視してしまいそうな雰囲気であった。
歩くだけで、日常によって遮断された時間感覚が茫洋と広がっていく。
ひとしきり世界最古の木造建築物をたずね歩き、いよいよ平宗。
が、なんということだろう。
団体貸切りで席がなく、一時間以上も待たねばならないという。
あいにくの雨。
一時間もの長丁場、この雨のなか値打ちある過ごし方などできそうにない。
切り替えよく、柿氷のことは忘れることにした。
向かうは、奈良町。
クルマを走らせる途中、めぐみの郷に寄り地産の食材を買い込む。
わたしは奈良天理ラーメンのカップ麺を買物カゴに忍ばせた。
雨脚は激しさを増す一方であった。
奈良町に着いたがとても散策できるような雨量ではない。
まずは腹ごしらえ。
息子は鰻を食べたいといったが、奈良では奈良ならではのものがいいと諭して、平宗奈良店で柿の葉寿司やらそうめんを食べることにした。
食事を終え、クルマであたりをぶらりと巡る。
若草山の広々とした芝生のあちこちに鹿の姿を捉えることができた。
大雨なのに鹿たちは悠然と草を食んでいる。
雨であっても雨なりに情緒あふれる表情をいくつも見せて、やはりかつての都、どの角度で見ても絵になって様になる。
ひと味違った奈良見物を楽しみつつも、さきほどの食事は男子の腹を埋めるには上品に過ぎた。
いつしか車内の会話は奈良から食べ物へと移っていった。
今夜は焼肉、明日は鰻。
そのように食事のメニューが定まって、わたしはつくづく思う。
子らが各自の米びつを携えて我が家にやってきた。
そのおこぼれにわたしが与っているようなもの。
常日頃、食べ物にこと欠くことがない。
その理由を挙げるとすれば、子らが携えてきた米びつ説以外にはあり得ないように思う。