雨の日は奈良。
自然と話がそう決まって、家を出た。
阪神高速を東へとひた走り一時間ほど。
奈良公園に到着した。
人出は少ない。
そう想像していたが、姿が見えるのは鹿だけで人影は無きに等しかった。
志賀直哉旧家のそばにクルマを停め、上の祢宜道から春日の杜へと踏み入った。
巨木立ち並ぶ森の道が雨にけぶって厳かで、一帯に漂う凛とした気が、そこが神域であると無言のもと告げていた。
人の気配はなく、動くものと言えば茂みで雨をしのぐ鹿のみであった。
まずは春日大社の社殿に向かって歩き、手を合わせ頭を下げた。
八枚襟を纏う巫女の姿があるだけ。
やはりここにも人影はなかった。
雨が媒介となるからか、神域の気が直接降り注いでいるかのように感じられた。
方々を歩くだけで、心が洗われ、癒やされた。
一時間ほど歩いたとき、雨脚が強まった。
足元が覚束なくなってきたので、春日の杜を抜け、なら町へと下った。
日曜なのに閑散とし、いつもの賑わいはどこにも見られなかった。
前回奈良を訪れたのは1月24日のこと。
その日は家内と平宗で昼を食べたが、今回は柿の葉寿司をテイクアウトするだけにした。
人から人に伝染る新種の肺炎について中国が公表したのが1月20日。
3ヶ月も経たないうち世界が一変してしまったようなものである。
商店街のアンテナショップで古都華を買い、角にある精肉店で肉を買おうと思ったがあいにく閉店となっていた。
風雨が激しさを増してきた頃合い、引き上げることにした。
クルマの中で柿の葉寿司を家内と分け合って食べ、ネットで精肉屋を探すが主だったところはすべて日曜が定休であった。
大和ポークと大和肉鶏は諦めざるを得なかった。
奈良を後にし、阪神高速を東へ戻る。
いままで目にしたことがないほど車両の数は極少だった。
無人の道を走るようなもの。
いつしか家内が歌い始め、車内は即席のカラオケボックスとなった。
こんなBGMもたまにはいいものである。
そう思いつつハンドルを握った。
地元のコーヨーでアグー豚とスパークリング、その他食材を買って帰宅した。
夕飯は、豚しゃぶ。
塩麹で仕込んであった鶏も鍋に入って、実に美味しい。
わたしたち夫婦は1セットずつで十分であったが、息子は豚を4セットも平らげた。
そのうえしめにラーメンまで食べるのであるから恐れ入る。
この日も平穏で静かな日曜となった。
食後、自室で二男は勉強し、わたしたちはリビングでYouTubeなど見て過ごした。
Amazon Fire TV Stickがあれば、家にいて飽きることがない。
日中はひと気のない場所でカラダを動かし、夜はリビングでテレビを見て過ごす。
最少催行人数は二人。
なんであれ一人だとつまらない。
そう身に沁みる土日となった。