コーナーに追い詰められたとみせそこから猛反撃するように仕事をこなす10月末日の午前、家内から電話があった。
弁当を持ってきたので駅の改札まで取りに来るように、とのことだった。
これから猛攻というときに水を差されたようなものである。
が、駅の改札で待ちぼうけさせる訳にもいかず、わたしはやむなく駅に向かった。
ちょうど指定の時間通り、ホームに入る電車の音が聞こえ、構内から掃き出される人混みのなか、家内の姿が見えた。
やあ、と手を挙げて改札越し弁当を受け取り、じゃあと言って別れた。
わたしは仕事に戻り、家内はこれからヨガにでも行くのだろう。
お弁当のメインは焼き魚とおでんであった。
昼を済ませて午後は外回り。
月初に神社にお詣りするのと同様、このところ月末はちょいと実家に寄ってちょこんと座って帰るのが習慣になっている。
用事があるわけでもなく、何をするでもない。
両親と顔を合わせるだけで言葉も少な、小一時間ほど過ごし実家を後にする。
見慣れた光景の街を歩きつつ、はてさて本日のハイライトは何であっただろうかと思い巡らせる。
スポットライト当たったのは、駅の改札。
改札での弁当の受け渡しはちょくちょくあることであり特に気に留めることもなく、むしろ迷惑がっていたりもしたのであったが、おそらく振り返る地点が遠くなればなるほど、強烈に光彩放つ一場面なのだと思えた。
はるか先の話。
もしどちらか一方がその改札を通りかかれば、必ずや改札越し受け渡した弁当のことを思い出し、そこでしばし足を止めるに違いない。
その気になって目を凝らせば、奇跡のような一場面一場面に日常は彩られている。