ある会合に呼ばれた。
知らぬ人ばかりのなか放り込まれることもたまには必要だろう。
男は誰だって人見知りする。
わたしだって例外ではなく、だから当然緊張し身構える。
どれだけ場数踏もうが、未知の方々を前に気楽に臨めた試しはない。
案内されたAテーブルに知る人はなく、周囲見渡しても知った顔はない。
顔見知りがあればそこを突破口に居場所見出すことは難しくない。
が、取っ手さえないよう未知のなかではまずは借りてきた猫とならざるを得ない。
仲良し小好しと縄跳びが巡るなか、タイミング良くその輪に入る契機を見出せずにいると、そのまま貝のようにだまり込みうつむいて過ごすというようなことになりかねない。
そうであれば自営業者として立つ瀬がない。
立ちはだかる未知のなか、わたしは自らを奮い立たせ初心に返らねばならなかった。
まずは基本に忠実、当たり障りのない声掛けからはじめ、名刺を交換し、話の糸口を見つけ、ほんの少し間をもたせ、相手の印象に残るよう心がける。
つまり、この日わたしは予選からスタートするようなものであった。
日頃、わたしはあまりにも恵まれすぎている。
すべての機会においてすでに仲立ちの方によってお膳立てが整い、予定調和のなか登場するような仕方で事足りるのだから、特別扱いされているようなものと言える。
この場において率先して世話焼いて、わたしを誰かに紹介してくれる者はない。
売出し中のピン芸人のように、自分で自分の背を押さねばならなかった。
こういう状況に置かれたときは、とにかく落ち着くことである。
どっしりと構えて周囲見渡し、間の合いそうな誰かを見つけ、関心もって話しかけ、ゆっくり喋って、ゆっくり動く。
そうすることで次第、自身の振る舞いに余裕が生まれ話相手と打ち解けて、まるで前から面識でもあったかのように、その場に溶け込めるということになる。
実戦の場から離れて久しいが、なんとか馴染めて知己を得て最後には大いに楽しく盛り上がることができた。
人見知りにも五分の魂、やってやれないことはない。
予選突破、そんな手応えを感じる足取り軽い帰途となった。