息子らの食事の用意を整え、家内とともに朝一番でジムに向かった。
ジムで過ごすことが楽しい訳ではないのでウキウキルンルンとなることはなく、行きの道中は多少なり気持ちが陰る。
しかし、やり始めると満更でもないような心境に変わり、やり終えた後は充足感を覚え心満ち足りる。
持って回ったやり方ではあるもののこの満足感がいいから、しんどくても続く。
2時間ほどたっぷり運動し、主婦はやはり忙しい。
まもなく昼。
帰途、昼食のための買い物をし、帰ってすぐさま家内は支度にかかった。
この日、長男が大阪を発ち東京に帰る。
たっぷり肉を食べさせよう、好物であるチキンも鰻も食べさせようと家内は思うから、キッチンで肉を焼き、ベランダでも肉を焼きといった風に、いつもより動くフィールドが大きく威勢もいい。
わたしも何か手伝おうと思うが家内のスピードについていけず、ただ突っ立っているのみ。
邪魔でしかなかっただろう。
次々昼食とする料理が出来上がっていった。
前菜はリングイネのボロネーゼでトッピングは牡蠣のオイル漬け。
続いてステーキ、そして焼肉、加えてチキン。
息子は全部ぺろりと平らげた。
それを見て家内は喜び、引き続き向こうで食べるようにと食材を幾つも荷物に投入し、車中で食べるようにとウナギ弁当を手渡すことも忘れない。
出発の準備がすべて整って、心なしか空気がしんみりとしはじめた。
ほどなくして友人から電話があり、息子は立ち上がった。
帰省の際とは異なる東大の友だちと同じ汽車に乗るという。
荷物を持たせ玄関まで見送る。
あ、そうそうとわたしは家内に買ってもらったばかりの上物の靴を「これを履いて帰れ」と息子の足元に置いた。
門のところで記念写真を撮った。
家内と並んで息子が写る。
思えば遠くへ来たもんだ。
猿同然のやんちゃ坊主が母の背を越し、おしゃれな出で立ちで笑顔を浮かべる。
空晴れ渡り、新春の陽光がきらきらと降り注ぐ。
前の公園ではチビっ子たちがはしゃいで遊んで、その声が明るく眩しく懐かしい。
この場面に身を置いて、心の中によいものがじんわりと広がるようで、しみじみ思う。
子を持ってはじめてわたしたちは愛情の何たるかを学んだのではないだろうか。
切なくも晴れがましく、それでいて無私とも言えるような心境に到達するなど想像もしていなかった。
3月に戻る。
息子はそう言って家を後にした。
西大和の捲土重来組が3月に吉報を掴む。
その彼らをねぎらい一緒に旅に出るのだという。
いよいよ西大和同期の東京組が勢揃いすることになる。
この春はなお一層賑々しい。
そんなことを思いつつ、遠ざかる息子の背をわたしたちはじっと見守った。