本郷の下宿先に着いてインターフォンを押した。
まもなくドアが開き、長男が中へと招き入れてくれた。
わたしは彼に野球のチケットを渡し、家内は持参した自家製梅ジュースや焼肉弁当四食分など各種食料を冷蔵庫に詰め込んだ。
東京ドームはすでに開場の時間を過ぎ、プレーボールの時間が迫っていた。
タイガースの応援、よろしくと伝えてわかれ、息子は友だちとの待ち合わせ場所へと向かい、わたしたちは春日駅から地下鉄に乗った。
昼はザ・キャピトルホテル東急のORIGAMIを家内が予約してくれていた。
都会の喧騒の中ではなかなかお見かけしない純度の高い静謐がここに群生していた。
別格の静けさに触れ、心が芯から落ち着いた。
パーコーメン、フライドライス、ジャーマンアップルパンケーキといった名物の品を昼食とし、コーヒーをお代わりしながら、夏休みの宿題をする学生みたいに二人で夏の旅程についてあれこれ調べ予定を詰めていった。
これでまた夏へと至る時間の彩りがいっそう増した。
気づけば二男との待ち合わせ時刻が迫っていた。
次の日には中野サンプラザが50年の歴史に幕を閉じる。
そんなことを知らず、待ち合わせ場所として選んだのが中野だった。
これまた家内が予約していた洋食屋でスパークリングからはじめ、白、赤とワインを空けた。
最近は66期のメンツより早稲友とよく遊ぶ。
そんな話をいろいろ聞いた。
店はラストオーダーの時間を迎えたが、まだ話は尽きなかった。
では、二次会。
駅の南口から北口へとまわって、わたしが店を選んで適当に目の合った寿司屋に入った。
やはり寿司は別腹。
もう満腹と言っていたはずの二男ががっつり食べて、つられてわたしも結構食べた。
そして、いつしか時間が経過した。
駅の改札の前。
三人で輪になった。
大阪から携えた料理のひとつひとつについて家内が説明を加えていった。
説明が終わって、少しばかりの沈黙の後、二男が改札の向こうへと歩いていった。
その背を見送ってからわたしたちは車中の人となった。
そこに息子たちの面影でも見えるのだろう。
家内はずっと窓の外の景色に目をやっていた。