帝国ホテル四階、撫子の間。
定刻午後六時、福効医院開院10周年記念パーティーが開宴となった。
乾杯の発声はこの人をおいて他にない。
天六いんちょの兄貴分、宝塚やすもと内科クリニック院長の安本先生。
田中内科クリニック院長である田中先生が司会を務め、その洒脱なトークが触媒となって、長い時間かけ培われてきた親密な雰囲気が更に密となって和気あいあいと会は進行していった。
料理の目玉は、銀座久兵衛の寿司と大阪なだ万の蕎麦。
二皿目の寿司を頂いていると、会を司るフォーユー薬局の相良さんから後で何か話すよう合図が出た。
しばし沈黙しぐるり頭を巡らせる。
皆の会話の声がその間だけ遠くに聞こえた。
この夜、長男の学校の保護者役員会がホテル日航奈良で行われていた。
そちらに出席する必要があって、家内は今回の10周年記念に参加かなわなかった。
天六いんちょのことが大好きな家内の観点で何か話せばいい。
ほどなくそう思い浮かんだ。
ミュートの状態を解除し、わたしは周囲との会話に再び溶け込んだ。
島田智明河内長野市長の挨拶の次に順が回ってきた。
33期で過ごした年月は短くなく、天六いんちょにまつわるエピソードは山のようにあり、10代当時のエピソードが主材料となって、その人物像は色濃く定着している。
良し悪しは別にして、昔なじみであればあるほど、その固定的な見え方以外の見え様がない。
が、異なるアングルに視点を置けば、まさに複眼効果、より精緻な実像が浮かび上がる。
たとえば、わたしの家内は天六いんちょのことが大好きで、尊敬の念さえ抱いている。
家族思いであり、子煩悩であり、親孝行者であり、弟家族にめっぽう優しく、
付き合う人すべてを大事にする。
それでいて、仕事ができて口が達者で頭が切れて度胸もあって頼りがい満点。
こうであってこそ男だろうという人物が『家族のようにあなたを診ます』の理念を掲げ、日夜天六において医業に邁進している。
おそらく間違いなく、家内がそう評するように地域の方々にとっても福効医院の院長は、ヒーロー的な存在であることだろう。
10代の頃、わたしたちはみな、熟れる時期まではるかに遠く果てしなく青かった。
そんな33期の一人が、いまやささやかヒーローとなって10年戦い抜き、そしてこの先も戦い続けることになる。
それをねぎらう場に参加できて、自分のことのように誇らしくて嬉しい。
多分、そんな感じの話をわたしはしたように思う。
続いては33期、渋谷が話す番となった。
渋谷と言えば、エピソード数において、天六いんちょと1位、2位を争う盟友。
奇しくもこの日、大阪星光33期のエピドードゲッターのツートップが揃い踏みしたのだった。
同級生らがそこにいて、長い年月を越えて仲良く話す。
そんな光景をみるだけでわたしはとても幸せな気持ちになれた。
二次会は階上にあるバー。
ミヤネ屋でおなじみ氏野先生がわたしの前に座り、福効医院副院長であるカネちゃんが隣に座った。
またたく間に時間が過ぎて、鷲尾先生と長谷先生が乗るタクシーに便乗させていただき帰途についた。
ボクシング談義で盛り上がるうち、家に到着。
時計をみると、日付が変わる直前だった。