電話が鳴ったがあいにく電車内。
駅を降りて折り返し、仕事の話をしつつ家へと向かう。
話が込み入ってきたので途中、スーパーの前で立ち止まり電話に集中した。
と、誰かがわたしを下方から覗き込んできた。
オレンジのカットソーも色鮮やかに小奇麗な女性が目に飛び込んできたから、一瞬戸惑い気が削がれた。
よく見ると家内だった。
ここで会ったが百年目。
電話の後、わたしはスーパーへといざなわれ運搬係&会計係と相成るのであった。
荷を抱えて家へと付き従いキッチンに運び入れた。
これでお役御免となってタッチ交代。
家内が食事を作る間、わたしはゆっくり風呂につかった。
前菜は甘エビのむき身。
続いて枝豆、アサリの酒蒸し、さわらの塩焼き、野菜炒めと続いたのですべてが前菜のようなものであった。
これもすべてわたしの健康のため。
家内の二万語に耳を傾けつつ、一口一口を噛み締めた。
この日、我孫子での用事を終えたあと家内は、きじ歯科西田辺診療所で診察を受けてきた。
そこで家内は、前日に33期のゴルフコンペがあったことを貴治院長から聞かされた。
きょう君主催で年3回行われる恒例コンペのことである。
回を重ねるごと参加者数が増え、今回は11名にものぼったという。
皆が仲良く集まって何より。
わたしはそんな風に思って聞いていたが、家内は心配そうな表情で言った。
仲間はずれにされているのではないか。
みんなに避けられているのではないか。
まず第一、コンペの連絡網であるフェイスブックのアカウントをわたしは持っていない。
いやそれより先、そもそもわたしはゴルフをしない。
数回やってアバラ骨を折って以来、まったく手出ししていないから、ゴルフに誘われるはずがなく、しかしその代わり、飲み会などがあるときにはたまに声をかけてもらっている。
家内の懸念を解くため、わたしはそのように言葉を費やさなければならなかった。
自分の夫は、本当は取るに足りないようなつまらない人間なのではないか。
心の奥底で女房という種族は、そんな疑念を持っている。
夫には友だちなどおらず実は忌み嫌われ、風采上がらずうだつも上がらず、気は利かず機転も利かず、話す内容は狭く小さくくだらなくてみすぼらしく、周囲に小馬鹿にされて気色悪がられても自省能力がないので恬として恥じず、だからこの世の果てまでみっともなくて痛々しい。
実際そんな男が存在し目の当たりにする場面があるからもしや自分の夫もと疑うことになるのだろうが、わたしは違う。
が、自身で説明しても説得力を欠き、話は平行線になるだけであった。
確かに自分が思っているより、周囲がわたしにつける点数は低い。
そう見るのが理性的かつ現実的だが、いくらなんでも赤点ではないだろう。
そのような消極的な自己評価をもって一応の説明とするほかなかったが、一体どう言えば伝わるのだろうか。
ただ単に、星光生は仲がいい。
いつもどこかで誰かが会っているから、そのすべてに顔を出すなど土台無理な話であり、そこに仲間外れや蚊帳の外といった悪念の介在する余地はない。
実際に星光生になってみればすぐに分かることであるが、説明するのは難しい。