1
照りつける日差しの強さは真夏と同じ。
しかし太陽が雲間に隠れた途端に暑さ和らぎ、その寒暖差が風を誘って砂塵が舞う。
場所は天王寺伶人町。
手にするスティックが刀に見えて、映画『用心棒』の決闘シーンを彷彿とさせる。
秋の府大会。
初戦は対夕陽丘高校。
夏の大会で惜敗を喫した相手である。
現高2が最上級生となって、新主将はチームのエースでもある7番。
先日は国体の大阪代表に選ばれて11番をつけていた。
ボールさばきが卓越していて安定の突破力を誇る攻撃の要であり男前。
この主将、兄弟皆が灘に行ったのに、おれはフィールドホッケーがしたいのだと大阪星光を選んだ殊勝な男。
そもそもの動機からして意気込みが違う。
もちろん続くメンバーも雪辱を期す思いを一にして、普段の倍増しで気合が入っていた。
こちらは気合十分、しかし相手は気合十二分だった。
星光を上回るガッツでこの試合に臨んできたのが夕陽丘であった。
フィジカルでやや劣勢、星光は気持ちでも押され防戦一方の試合となった。
攻撃の起点になるはずの7番と15番、ともに国体の大阪代表がしっかりとマークされ、前を向く機会自体が少なく、とても得点など期待できなかった。
終始、肝を冷やす場面が立て続いた。
それでも結局相手に得点を許さなかったのだから、大善戦したと評価すべきなのだろう。
その意味で、この試合のMVPはキーパーである背番号1と言えよう。
端正な顔立ちの男前だが、キーパーに扮した際は豹変する。
まるでキングコング。
咆哮しつつ、飛弾をことごとくカラダで跳ね返した。
夏の大会では1対0で星光は敗れた。
この日は0対0で引き分け。
どう得点するか。
それが課題として残った。
2
死力を尽くして戦い、何人もの選手の足がつっていた。
校門脇で車座になってへたり込み、しばしカラダを休める。
だから当然、金の延べ棒より氷柱。
ママらが持ち寄った氷柱が、北極のシロクマに差し入れされる氷のごとくの役割を果たした。
うちは芦屋ラグビーで学んだとおり、牛乳パックで氷柱を用意した。
ペットボトルで作るより溶けにくいし、捨てやすい。
今後すべての氷柱が牛乳パックで作られることになるだろう。
次の試合まで時間があった。
わたしは家内と食事するつもりであったが、家内はママ友らのグループとともに姿を消した。
それで一人ぶらつき回転寿司で昼をとることにした。
灼熱のなか身を置いていたから、ビールが美味しい。
懐メロが流れて店の情緒もなかなかいい。
と、客席の方からも小さくささやくような歌声が聞こえた。
メガネをかけた中年のおばさんがひとり寿司を食べつつ「燃えろいいオンナ」と口ずさんでいたのだった。
日曜日、大好物の寿司。
メガネのおばさんはいま幸せを満喫している。
見知らぬ誰かであるが、そこに幸あればこちらも嬉しい。
この先、「燃えろいいオンナ」を耳にする度、わたしはそのメガネのおばさんのことを思い出し、幸せのお裾分けに与れることになる。
3
午後の試合は対天王寺高校戦。
青から赤、目にも鮮やか、星光野武士集団は身にまとう装束を変えていた。
夕陽丘戦の防戦一方とは打って変わって、序盤から優勢が続いた。
が、相手がしっかり守るので決め手なく、攻めあぐんだまま終盤にまでもつれこんだ。
展開が変わったのは、それが定石であるかのように15番が左サイドをしつこく何度も攻め上がるようになってからだった。
15番も先日の国体の大阪代表で、そのときは背番号12。
支配力もってボールがさばけドリブルが華麗。
目から鼻に抜けるような如才なさを備え、攻守に渡って見せ場を作ることができる選手と言えた。
左サイドが主戦場となって、いつしか強固に守られていた中央が手薄になった。
だからそこに、てんてんてんとボールが転がり込んだとき、得点機が訪れた。
ようやく1点が入り、ここで天王寺高校の疲労が限界に達したのか足がつる選手が続出し、同じようなパターンで星光は立て続け得点し、結果計4点をあげることになった。
星光チームにおいては7番、15番、10番と3人の選手がボールをキープしたまま前線に駆け込むことができる。
多彩な攻めなど望むべくもないが、1点を決めに行くときの常套手段を2つか3つ定め、それを単純に繰り返す、というのが最も得点に結びつく戦術になるのではないだろうか。
15番は左サイドをえぐって相手を引きつけ、空いたスペースにボールを出し、そこに7番か10番が駆け込む。
時には、15番が右サイドをえぐってみるのも面白いだろう。
センターでは7番が突進し、直ちに第二矢を放てるように15番か10番が後ろについて援護する。
その場その場の思いつきで動いてちぐはぐになるより、型通りの動きを連続させることが最適な攻めを生む最短コースであるように思える。
そのためにはマークを振り切るフィジカルの強さが必要になるし、もっともっと走らなければならないだろう。
この日、7番と10 番の足がつって試合中、退場する場面があった。
ということは15番。
彼には余力があったはずであり、だから終盤も軽やか走っていたが、それならもっと最初から飛ばせばいいではないかという話になる。
日頃栄養たっぷりな食事をし、生まれつきカラダも頑丈。
15番が縦横無尽に走れば得点力が増す。
わたしのこの見立てに間違いはないだろう。
4
試合を終え、家内と夕飯。
向かうは四天王寺夕陽ケ丘の蕎麦料理はやうち。
まさに灯台下暗し。
星光の近くにこんな名店があるなど知らなかった。
蕎麦で最もおいしいのは土山人。
そこを超える蕎麦はないかあれこれ試してきたが、ようやくここで巡り会えた。
そして、ただでさえ美味しいのにこの日は子の活躍を目にしたばかり。
だからその美味しさは筆舌に尽くせない域に達した。
子の活躍ほど親を慰撫し心満たすものはない。
ドリブルする姿について話し、皆の先頭に立って寡黙に歩く姿について話し、他校の選手や先輩とも自然な振る舞いで堂々と会話する姿について話し、いつまで経っても話が続いた。
結局、食事を終え電車に乗って帰途につきスーパーで買い物し家で飲み直し日付が変わっても話は尽きなかった。